Yonder: The Cloud Catcher Chronicles - オーディオ日誌エピソード2 - 40種のノイズ

ゲームオーディオ / サウンドデザイン

私はオープンゲーム世界ゲームが大好きで、その中を旅して冒険しながら、よく周りの環境を細かく観察しています。でも気付くと、現実世界と比べています。私は日本に3年住んでいましたが、東京で1年、青森県で2年過ごした中、特に気になったことの1つが、季節や場所によって環境が劇的に変わる事です。

春と夏の日本は生き生きとしていて、鳥たちが活動的ですが、音の観点でいうと、この季節に目立つのは虫たちの声です。日中は何万といるセミの音、そして夜はコオロギの歌が、日本の自然に響き渡ります。日本を訪れる観光客が気付きにくいのは、昆虫の種類によって虫の音色も異なり、生息する場所も違うということです。つまり、日本の南から東京まで北上し、東北地方まで進むと、聞こえてくる虫の音も変化します。また、季節によって虫の音も変わります。そのことを知っていた私は、日本映画を見ながら、そこで出てくる虫の音を聞くだけで、その撮影場所や季節を特定できるようになりました。

私たちはよく、観客であるプレイヤーがゲームゲーム世界の中で何時間も過ごすように誘導して、バイオームの種類を豊富にそろえて複雑な地形をデザインします。それなのに、こういった視覚的環境の詳細表現と比較し、かなり劣るオーディオを作らなければ行けない時もあります。私は、ゲーム世界に生命力を追加したかっただけではなく、昼夜の差や、夏から冬への移り変わり、そして晴天と暴風雨の違いなどを強調した、生きた世界をつくりたいと思いました。

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Yonder: The Cloud Catcher Chronicles には、鳥や虫やカエルの音が40種以上入っています。私のやり過ぎかな?そうかもしれない。でも、その結果、様々な状況変化が描かれるダイナミックな生態系のあるゲーム世界が出来上がりました。どの音の実装も、Gemeという場所を探索するストーリー全体をサポートするために設計されています。

パレット
スタート地点として、できるだけ幅広いコンテンツから選んでいきたいと思いました。私のSFXコレクションは膨大で、個人的なレコーディングもあります。また最近、古いレコーディングを復元して、ゲームへの実装に適した形にする作業を行っています。サウンドレコーディングを仕分けながら進めるのは、まるでどの楽器のために作曲するのかを選ぶようです。どの音にも独特の性質やテキスチャ、そして品質があり、それに該当する具体的な感情表現があるのです。一番合ったセミの鳴き声を選ぶのは、作曲する曲のソロをどの管楽器にするのかを決めるのと同じくらい、大事です。

ダイナミック環境システムの第一弾が既に数か月前に作成してあり、それが技術的な観点ではうまく作動してゲームで効果的に音を出していました。基本的な鳥や虫の音を集めたもので、ゲームゲーム世界用に適格に機能していました。このシステムの詳細をこれから説明しますが、その前に、ソースコンテンツの選定も重要なので、少しだけ言及します。仮置きのプレースホルダー音を入れることで、システムをテストする準備が整いました。ゲーム世界が大きくなり、アートワークが仕上がり始めてくると、私はゲーム世界に入って何時間でも過ごすことができました。そのとき、主にほかの音の実装を行ったり、ミックスのバランス調整を繰り返し実行したりして過ごしたのですが、時々、本当にプレイして探検してみることもあり、そういったときは耳を澄まして「感じ取る」のでした。

第2弾のコンテンツ選定の段階に入るころには、バイオームを知り尽くしていたので、自分が何を欲しいのかが分かっていました。生のSFX素材に目を通しながら、多くの場合はその名前も見ないで偏見をもたずに聞き入っていました。音に完全に身を任せて、付いていったのです。豊かで生命力あふれる音もあれば、隙間だらけのものや、暑くて乾燥し荒れた風景を思い浮かばせるような音もありました。ほとんどの場合、その音を発する動物が現実世界の固有の環境に生きているからですが、名前や特徴を見ないでフィーリングを元に進めたおかげで、良いコンテンツの選び方ができた気がします。

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音と音楽の様々な観点をコントロールするのに、Wwiseのステート方式を使っています。既にDayNightというステートがあったので、それを拡張しようと思いました。そこで追加したのがDawn(夜明け)とDusk(夕暮れ)というステートで、メインのステートであるDayNightが切り替わる中間点をつくりました。これを音楽とSFXの両方に使いました。一方、各種の鳥や昆虫用に、個別につくり上げていき、その鳴き声を聞いた時の自分の感情に近づけていきました。私にとって、どうしても夜明けの鳴き声に聞こえない鳥の声がいくつかありました。どちらかというと、真昼に上空を旋回しているイメージだったのです。そういった音は、真昼のステートになったときだけ、トリガーされるようにしました。虫も、夕方の始まりにトリガーされるように実装した虫もあれば、完全に暗くなってからトリガーさせるものもありました。

 

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DuskNightの時間帯に有効になり、Dawn到来とともにフェードする虫の音の設定例。この種に関しては、SpringSummerの季節だけ有効になる。

鳥のダイナミック構成は個別の鳥の鳴き声を使いましたが、設定する具体的な種によってトリガーレートを変えました。小鳥の方が、大型の鳥よりもチュンチュン鳴く傾向にあります。このシステムを使うと、トリガーレートもダイナミックに変化させることができます。夜明けと夕暮れは一斉の鳴き声を設定して、多くの鳥がいつもより沢山鳴くようにできます。日が進むにつれてトリガーレートを低くして、日中で一番暑くなる正午は、鳥がほとんどいない状態にします。

季節的な観点では、多くの動物の求愛時期である春に鳥が一番活発になるように設定して、夏は少しおとなしくさせて、一部のバイオームでは賑やかな虫の音に完全に置き換えました。リージョンによっては、同じ種の鳥が春から夏、そして秋にかけて活発に鳴き、寒い冬は静かになるようにしました。ほかのバイオームでは、春だけ活発な鳥の種があって、夏以降は別の鳥や虫の音が聞こえるようにしました。

 

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Grasslands_Birds4種の鳥で構成され、BellsVireoを展開表示すると、この種の選択肢すべてとなり、16個のサウンドファイルを確認できる。どの鳥も、手元にあるその鳥の種のサウンドファイルを元に、種ごとに複数のサウンドファイルがある。

Wwiseのステートシステムの強みは、個別のオブジェクトを簡単にアサインして詳細設定することができる上、きれいにブレンドして前後をぴったりはめられることです。もう一つの便利なインプリ技は、バイオーム専用の全てのサウンドオブジェクトを、1つのイベントに入れることです。Unityへのインプリ用に使ったメインのゲームオブジェクトは、そのバイオーム専用の木です。どのバイオームも、それぞれの木の種が決まっています。鳥や虫は一般的に木の周りに集まるので、ナレーションの観点からも納得のいく方法で、ゲームゲーム世界全体に存在する各種オブジェクトをエミッターとして利用できます。また、木のプレハブ(prefab1つに対して、イベントを1つ同期させるだけで、ゲーム世界全体においてインスタンス化されるます。(プレイヤーは植物の種子を収集して、ゲーム世界内のどこでも置くことができるので、これは重要でした。

最初は、鳥イベントと虫イベントの両方を木のプレハブに添付していました。でも、もっとシンプルにできると気付いたのです。1つのWwiseイベントに複数のサウンドオブジェクトを入れることができます。つまり、あるバイオームで生活する鳥や虫の複数の種を1つのイベントに入れて、それを木のプレハブに添付すればいいのです。ステートシステムを使えば、1つのイベントの中にサウンドオブジェクトが4個とか6個あっても、それぞれが指定された昼夜の時間帯や季節ステートの時だけ、再生されます。それぞれのオブジェクトに、独自のエフェクトや減衰を設定できます。ここでも、それぞれの種が聞こえなくなる範囲を、ゲーム世界内の特徴に従って調整できます。

 

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バイオームでスペーシャル化された環境音をつくり出すのに必要な、すべてのサウンドオブジェクトをたった1つのイベントに入れ込むことができる。このイベントの中に入っている複数のオブジェクトは、それぞれのステートが発生したときだけに、トリガーされる。ここでは、サウンドオブジェクトが6個入っていてるが、一度に再生されるオブジェクトは通常1つだけ。システムを定義してしまえば、ゲームに実装するのがグッとシンプルになる。

ゲーム世界の中を散策すると、実際に周りの空間を感じ取ることができます。木の中には鳥が23種類いたりして、それぞれ鳴き声を数種類もっています。システム全体で、スペーシャル化されたダイナミックな環境を生み出します。取得しても良い木を切り倒すと、それに関係するサウンドが出されなくなります。バイオーム内の全ての森林を切り倒すと、その状況が環境音にも反映されます。

どのバイオームにも飛び交う鳥がいます。これらは非常にベーシックな形をしたアニメーションです。でもそこに音が添付されているので、近くを飛ぶ時に不規則に鳴き声が発せられます。この最後の要素が、ダイナミックで生命力の感じられるゲーム世界をプレイヤーに売り込むのに役立っています。

 

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各バイオームには、独立した天候システムもあります。どのバイオームも一般的な風の音がありますが、森では、風になびく葉の音も木に添付されていて、その場所から発せられます。森エリアの雨音は葉っぱに落ちる雨の音で、草原エリアの雨は、土を打つもっと軽い音です。高山エリアや砂漠エリアの風の音は、ほかの環境タイプとかなり違います。ストーリー全体にまとまりをもたせるために、選択する際も常に共通のアプローチがあり、それは「私をどのような気持ちにさせるか」という考え方。 

冬季や雪バイオームのプレイヤーに寒さを感じさせたり、砂漠で暑く感じさせたりするには、オーディオがビジュアルエフェクトを完全にサポートしていると、成功しやすくなります。実際、視覚的な変化よりもオーディオの方が、プレイヤーの想像力を覚まし、感傷的な気持ちを引き起こします。忘れてはならないのが、空飛ぶ鳥の単純な図形以外は、鳥も虫もゲーム内でオブジェクトとして存在せず、音としてのみ存在していることです。つまり、ゲーム世界内には魅力的で多様な動物が沢山住んでいるのですが、これらはオーディオとしてだけ、存在しているのです。この点では、Gameaのゲーム世界の生態系の多くを私が決めて作成したことになり、この方法だからこそ、何十ものモデルを作成したり複雑なコードを延々と描いたりせずに、豊かな環境をつくれたのです。

 Yonder: The Cloud Catcher Chroniclesの環境オーディオを作成する上で使用したテクニックは、すべて私がVR/AR/MRの実装を研究した過程で取得したものです。New Realitiesに関しては、私たちはもっと詳細で正確なサラウンドスペーシャル環境を求めていて、それによって視聴者にゲーム世界の没入感を感じてもらい、引き込まれるようなエクスペリエンスとなることを目指しています。でも、このようなテクニックの多くが、いわゆる従来型のスクリーン形式のゲームゲーム世界でも、同じくらい有効だと気付いたのです。例えば、カメラの動きで、VRのヘッドトラッキングの「世界が回転するような」エフェクトに似たものを、オーディオでも出せるのです。理由は、風雨などの天候サウンドが4つの方位に設定されていて、環境音の鳥や虫はゲーム世界全体の木の中にローカライズされているからです。つまりGemeaは色々な意味でダイナミックなバーチャル環境であり、そのおかげでプレイヤーはもっと引き込まれて、楽しいエクスペリエンスとなるはずです。

 

この記事は、Gamasutraに最初に掲載されました。

ステファン・シュッツ(STEPHAN SCHÜTZE)

スペーシャルオーディオのプロデューサー兼コンサルタント

サウンドライブラリ案内人(Sound Librarian)

ステファン・シュッツ(STEPHAN SCHÜTZE)

スペーシャルオーディオのプロデューサー兼コンサルタント

サウンドライブラリ案内人(Sound Librarian)

ステファン・シュッツはゲームオーディオ制作に20年近く携わってきたコンポーザー、サウンドデザイナー、ロケーションレコーダー、そしてスペーシャルオーディオの実践者。仕事で幅広く多様なオーディオプロダクションスキルを身に付け、New Realityテクノロジーの主要企業と制作に携わったことをきっかけに、今まさに進化中のこのテクノロジーを使ったオーディオプロダクションテクニックに関する最初の本を著す。

 @stephanschutze

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