インパルスレスポンスのリバーブで向上する音のリアリズム

サウンドデザイン

インパルスレスポンスで実際の部屋を超現実的に再現できることは、よく知られています。インパルスレスポンスの収録はやや技術的であり、最高の品質を達成するためには高度な機器が必要です。屋外のインパルスレスポンスを空間的な特徴を持たせて作成する場合、さらなる困難があります。しかし、サウンドデザイナーであれば誰もが知っている通り、音響的な信ぴょう性や没入感のある方法で音の発信元を屋外に配置することは、非常に難しい課題です。

インパルスレスポンスとは?

インパルスレスポンスは自然のリバーブの代替品として使います。技術的には非常に短い音、またはディラックのスパイクに対する特定システムや空間の反応の測定であり、コンボリューションリバーブのプラグインに用いて、ある場所の音響特性を再現することができるダイレクトインパルスです。

実際のインパルスレスポンスを作成するまでに、もう少し演算が必要となるテクニックがほかに2つあります。ノイズのシーケンスを収録する方法が1つで、ある端末が(プロ仕様のスタジオ機材やコンシューマ向けHi-Fiシステム、強いて言えばゲームコンソールなども)、スピーカーを最適化するため、また室内の音源つまりプレイヤーの位置を確認するために(Microsoft Kinect)、部屋の大きさを測定する時に耳にすることがあります。

3つ目のテクニックとは専門家の音楽や音響の現場でよく知られているスイープの収録であり、(理想的には)一定の時間に渡りすべての周波数を均一にとらえる方法です。

最も使い勝手がよいのは収録されたインパルスであり、これは何しろインパルスレスポンスそのものであるため、そのまま利用することができます。ほかの2種類はインパルスレスポンスに畳み込むために、若干の技術的な調整が必要です。

 

メリットは?デメリットは?

インパルスレスポンスは実際の部屋を反映します(再生時や録音時の機器による測定エラーやカラレーションは除きます)。超現実的であり、写真と同じです。

そしてこれこそが「デメリット」なのです。3Dオブジェクトは写真よりも現実味、芸術性、表現力などが劣ることがあります。一方で自由に変更することができ、引き延ばしたり色を修正したり部分的に入れ替えたりすることもできます。インパルスレスポンスには制約があります。もちろんカラレーション修正(EQの調整)や動的な変更などの一部のことは可能であり、タイムストレッチやピッチシフトも行えます。しかしアルゴリズムによるリバーブの方が、より多くのことを行えます。とは言え現実性や信ぴょう性では負けてしまいます。最終的にアルゴリズムのリバーブにするのか、それともインパルスレスポンスにするのかは、あなたが伝えたいストーリーや、プレイヤーをバーチャルな世界に引き込むための方針や、納得のいく現実味よりも柔軟な創造力を重視するゲームまたは作品のスタイルなのかなどによります。 

 

すばらしき野外

ゲームでは一般的にスタジオ録音の音や比較的汎用性のある空間情報を用いて、収録した音をさまざまな場所に後から配置していきます。単純にゲームに出てくる場所の数が多すぎるため、各ロケーション(または類似する環境)に出向いてすべての音を収録することはできません。そこでシーン内のロケーションの自然な反響音を真似るリバーブを適用する必要があります。この時に使うリバーブを間違えると、スタジオ内で録音したものである、または実際に繰り広げられているシーンとは異なるロケ地で録音したものであることがあからさまになってしまいます。 

IR_URBAN-Fortress Courtyard Echoing 55m_B00M_FSIR

通常はインパルスレスポンスを作成することで対応します。必要なロケ地に出向いて大きな音(インパルス、ノイズ、またはスイープ)を出し、その結果(レスポンス)を収録します。このインパルスレスポンスをコンボリューションリバーブプラグインに入れ、オーディオ信号で畳み込みます。瞬時にその音がロケ地でレコーディングしたかのように聞こえます(理論的にそうですが、もちろん現実はそれほど簡単ではありません)。

IR_NATURE-Canyon Small Echoing 20m_B00M_FSIR

この段取りが場所によっては非常に難しい、または不可能です。あまりにも広い場所であれば妥当なSN比を得るために、想像を絶する大音量が必要となります。公共の広場など常に混みあった場所のど真ん中となると、干渉が単純に多すぎます。行き着きにくい場所であれば、必要な機材をすべて運び込むことができないかもしれません。立ち入り制限のある場所では、音の収録許可を得ることが難しくなります。私たちは“Fields and Spaces - Outdoor Impulse Response”ライブラリのために、そのようなロケ地を再現して最大3次アンビソニックスまで、すべてのスペーシャル情報込みでキャプチャーし、高度なダイナミクス実現のためにバックグランドノイズをほぼゼロにすることができました。

IR_URBAN-Metropole Center 01 Echoing 40m_B00M_FSIR

 

空間性

インパルスレスポンスをモノラルで録音することは簡単です。音源(スピーカー)と受信機(マイク)を用意します。次にそれぞれを室内のちょうどよい場所に置き、インパルスを収録します。

ステレオでの録音も基本的に同じです。室内にスピーカーを1台置き、それを好みの位置にセットアップした2本のマイクで収録します。以上です。

一方サラウンドの場合、興味深い芸術的な質問が飛び出してきます。音源をサラウンドの音場の内側に配置し、より均一に広がるサラウンド音像をキャプチャーしたいのか?あるいは音源を外側に置き、必然的に指向性による方向性だけでなく、マイクロフォンのカプセル間(あるいは後ほどの再生スピーカー間)の時間差による方向性を生み出したいのか?

アンビソニックの場合、アンビソニックマイクは一致し、すべてのカプセルが(これも理論上ですが)全く同じ位置にあるため、セットアップの内側に何かを配置することができず、この質問自体がやや無意味となります。つまり音源は必ず外側に位置することになります。 

 

空間性の検討

これについてはさらに難しくなります。“True stereo”というものがあります。これは室内の1つの音源をマイク2本(ステレオセットアップ)で録音しないという意味です。同じ音源を室内の別の位置に移動すると、マイクの位置が同じでもリバーブが違ってきます。音源を左の方に寄せた場合は急に左側の架空の壁からの反射が、右側の壁からの反射(およびその他の多数のシフトされたエコー)よりも早くマイクに届くようになります。直接音も違って聞こえ、ステレオセットアップによってはっきり聞こえたり聞こえなかったりします。つまりtrue stereoで音が実際の音に近づきます。点音源を1つではなく2つ収録することとなります。コンサートホールのオーケストラを想像してみてください。右端のベースのリバーブの配置と左端のバイオリンのリバーブの配置を違うものにすることができます。さらに左端と右端の間用に、これら2つのステレオIR(インパルスレスポンス)のミックスを作成できます。

これはもちろん本当のしくみと同じではありませんが、それにかなり近づき、人間の耳にとってより聞きやすく広がりをもった理解しやすいステレオ音像となります。欠点は再生中の演算能力が2倍かかり、CPUへの再生の負荷が2倍になってしまうことです。実際には2つの異なるステレオインパルスレスポンスを再生することとなり、4チャンネルのリバーブに相当します。

サラウンド:やれやれ、次は何?と思いますよね。これも「オーケストラ」で考えた場合は許容できるかもしれません。サラウンドでtrue stereoを実行します。フロントエリアで2つの異なる点をキャプチャーするのです。ただし通用するのはこの状況だけです。リスナーの前だけでなく横や後方で発生するかもしれないサウンドエフェクトでは、より複雑になってきます。5.1システム(小型のセットアップ)でtrue stereoに近いものを達成するためには、専用のインパルスレスポンスを収録します。例えばLFEとセンターを省き、フロントとリアだけをとった場合、4チャンネルのサラウンドリバーブではなくなり、にわかに4 x 4 = 16チャンネルのリバーブとなり、CPU負荷が増大します。

アンビソニック:1カプセルにつきIRを1つ作成する必要はないかもしれませんが、収録する音源位置が多ければ多いほど、空間的な解像度は上がります。さらにステレオに対してtrue stereoに相当するものを360°でキャプチャーするためには、少なくともサイコロの角の数だけ必要です。これが状況を悪化させます。トラック4本(1OA) x 音源位置8か所 = 32チャンネルのリバーブです。リバーブがあなたのゲームで頻繁に中心的な機能を果たさない限り、ゲームの実行時にやり過ぎとなるでしょう。しかもこれはたった1次のアンビソニックです。より高次な3次アンビソニックなどとなるとチャンネル数は128ですが、それは音源の位置を8か所「だけ」(サイコロの角の数だけ)とした場合であり、3OAでは情報の入っていない空っぽの空間がたくさんつくられます。 

 

解決策

IRは結局のところ、ゲームには複雑過ぎて重すぎるように思えてきます。ただし空間的なリバーブというトピック自体はインパルスレスポンスに限定されるものでなく、空間的なアルゴリズムによるリバーブにも同じ考え方が当てはまります。

ではどうするのか?1点目としてtrue stereoの考え方は必ずしもサラウンドに取り込む必要はありません。どちらかと言うと3D環境でリバーブを配置して使用すべき場所を探る際に、検討項目として頭に入れておけばよいのです。2点目としてリバーブの中にはロケーションをより適切に表現するパーツがあったり、音源の位置をより適切に表現するパーツがあったりし、主にテイル部分とアーリーリフレクション部分がこれらに該当します。 

Theater Early Blue vs Tail Black

私たちのインパルスレスポンスプラグイン“Rooms and Spaces”と、新たな屋外バージョン“Fields and Spaces”では、特にテイルと拡散インパルスレスポンスのキャプチャーに注目し、アーリーリフレクションを避けるように努力しました。アーリーリフレクションの方がエコーの量が非常に少なく、短い時間であるため、比較的簡単に計算できます。例えばAudiokineticのReflectプラグインがまさしくそれを行います。ゲーム内に実際にある3Dオブジェクトや音を遮ってしまう障害物に基づき、アーリーリフレクションをつくり出します。テイルにインパルスリバーブを追加することで没入感のある深く柔軟なリバーブがつくられ、ランタイムにおいて移動する音源であっても、その位置が的確に表現されます。

 

BOOMのFields and Spacesを試してみる

Boom Library

Boom Library

BOOM Libraryは2010年に、ドイツのマインツにあるヨーロッパ最大のゲームオーディオスタジオDynamedion出身で、受賞歴のあるオーディオ仲間たちが設立。高品質で究極のサウンドエフェクトを、あらゆるメディアやオーディオのプロたちに、自信をもって提供。プロダクトには、ほかにはない特徴的なエッジが感じられる。最高級のサウンドエフェクトやソースレコーディング、そしてソフトウェアツールを、高解像度で提供することをミッションとする。

Youtube

Soundcloud

 @boomlibrary

コメント

Replyを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

ほかの記事

聴覚ディスプレイで安全運転、ガイダンス、そしてエンターテイメントも - インタラクティブサウンドを取り入れた機能的なオーディオインターフェース

9.1.2018 - 作者 フランソワ・ティボー(FRANCOIS THIBAULT)

Wwiseが小規模ゲームに向いている、5つの理由

ゲームオーディオに携わり、小さなゲームプロジェクトに関わった人なら誰でも、この議論をしたことがあるはずです...。...

6.8.2019 - 作者 アレックス・メイ(Alex May)

WwiseとREAPERの連携(パート1)WAAPI Transfer

WAAPI...

27.5.2020 - 作者 二コラ・ルキッチ(Nikola Lukić)

『No Straight Roads』 音楽ゲームワールドのデザイン

Wow! ゲームオーディオ関係者の皆さん、こんにちは。私たちが、洗練されたスタイルで繰り広げられる音楽世界『No Straight Roads (NSR) 』に、WwiseとUnreal...

27.10.2021 - 作者 Imba Interactive

レーシングエンジン音をREVで作成

30.8.2022 - 作者 徐巍

マルチトラックSFXライブラリ Strata ~ アーリーアクセスユーザの声

Strataの発案...

24.11.2022 - 作者 サイモン・アシュビー(Simon Ashby)