『Psychonauts 2』 サウンドの舞台裏

ゲームオーディオ

『Psychonauts 2』は2005年にリリースされたPsychonautsのさまざまな出来事を経験したラズが、さらに冒険を続けるというエキサイティングなプラットフォームアドベンチャーゲームで、キャラクターたちの心の中に入る十数個の独立したレベルがあります。サイケデリックなロックコンサートや料理番組ゲームなど多種多様な場面でラズが敵やボスに直面します。このゲームは性質上、ゲームのビジュアルが常に変化し続けるために、ある場所で機能していたものが別の場所では機能しないという、レベルごとの複数の課題が見つかりました。

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Double FineのPsychonauts 2チームには5人の主要オーディオ担当者がいました。オーディオディレクターのCamden Stoddard、シニアサウンドデザイナーのPaul O’Rourke、ボイスとローカライゼーションプロデューサーのMalena Annable、テクニカルサウンドデザイナーのSteve Green、そしてボイスオーバー(VO)エディター兼サウンドデザイナーのKate Kellyです。

ポータルはマインドへの入口

私たちは開発当初からプレイヤーに超現実的な環境をまたぐ空間移動を体感してもらいたいと考え、いくつかの方式ができていました。なかでも頻繁に利用するのが「ポータル移動」です。ポータル(出入口)とは事前に決められた穴のことで、プレイヤーは別のエリアへ瞬時に移動できます。ポータルを通るとマップの反対側に転送されることもよくあります。ここでサウンドデザイン的に多数の問題が発生してしまい、特に大変だったのはポータル前後の音の伝播でした。

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ロックンロール

ポータルのしくみやプログラミングの多くを担当したのは、Double Fineの極めて優秀なプログラマーの1人、Aaron Jacobsです。

昔ながらのシナリオでいうと、ドアを開けて戸口を通る行為です。音はドアの向こう側でも聞こえるはずです。ところがドアの向こう側が実際にはとてつもなく遠い場所となると、Wwiseのアテニュエーション(減衰)機能では距離が離れ過ぎて何も聞こえません。 

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近いようで遠い

開発時のワーストケースシナリオはフォードのメールルームとDead Letter Officeでした。ゲームエディタで見るとこれらのオフィスは中央メールルームから遠く離れています。ところがゲームプレイ中はポータルシステムのおかげで中央メールルームが目の前に出現し、うるさくて巨大なフォードのメールボットがせっせと働いているのです。

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あっぱれフォードボット

最初はポータルを通り抜けてアテニュエーション範囲内に入るまでその音が聞こえませんでした。

問題解決として次に試したのは、ドアのそばにフォードのボットがいるかのように聞こえるように、ドアの位置にアンビエンスのポイントソース(点音源)を作成することでした。ところがこれでは彼のアニメーションと音が連動しない上、ポータルを通りポイントソースから離れると音が聞こえなくなってしまいます。なんとかごまかしてポータル越しに向こう側の音が聞こえるようにすることが真の解決策であると、早い段階で気づきました。

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ポータル間の空間を示す図。この例では赤ポータルから入ると緑ポータルから出てきます

解決策として複数のリスナーを取り入れました。通常プレイヤーが使用するのはカメラ上のリスナーです。一方、ポータルの近くでは別のリスナーをポータルの反対側の同じ距離と位置に導入しました。プレイヤーのカメラが移動すると、ポータルの向こう側の第2リスナーも移動します。巧みなミキシングを行い、ポータルの反対側の音が拾われて再生されるようにしました。

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あちこちにいるリスナー

パフォーマンスを優先するためプレイヤーの予想内のダイナミックな音はほぼすべて第2リスナーで拾うようにし、例えばポータルの向こう側に石を投げた音は聞こえるようにしましたが、私たちがあまり重要視しないループや物体などの音は制限しました。第2リスナーに必ず拾われるべきゲームオブジェクトは、指定できるシステムも構築しました。そしてプレイヤーがポータルを通過すると、第2リスナーは瞬時に最初のポータルの位置に移動して錯覚を継続させるため、退出した方の部屋の中身がすべて聞こえます。

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まさに魔法

新たな問題点

マップの向こう側の音も聞こえるようになったことは大変よいことで、没入感が高まりました。ただしこれはこれで問題や課題がありました。一番の難題がオクルージョンでした。

プロジェクトの初期段階でWwiseのデフォルトのオクルージョン機能を使用しないことに決めました。素晴らしい機能ですが、私たちの特定のニーズを満たすにはやや物足りないことが分かりました。ゲーム内では完全なオクルージョンを適用してオブジェクトを遮蔽させたい場合があれば、ローパスフィルタだけを適用したい場合、すぐ隣にある隠れアイテムはプレイヤーが特定のゴールを達成したりユニークな能力を獲得したりするまで完全に遮蔽したい場合もあります。

とんだ大騒ぎ

Psychonauts 2にはコレクションアイテムがたくさんあります。その多くは隠されているか秘密です。私たちは開発中にBobby Zのレベルでポータルの向こう側にいるEmotional Baggageというコレクションキャラクターが大声でプレイヤーに呼びかけるというシナリオに遭遇しました。プレイヤーにコレクションアイテムを見つけてもらいたいのですが、あまりにも分かりやすかったり、ポータルのからくりによる錯覚が失われたりするのは避けたいと考えました。

基本的にはゲームオブジェクトに添付できるコンポーネントをUnreal Engineで作成し、オクルージョン設定を個別にWwiseのRTPC(リアルタイムパラメータコントロール)カーブで微調整できるようにしました。デフォルト設定も用意しましたが、オクルージョン関連の問題が生じた時に手作業で工夫できるようにし、リアルなシチュエーションから外れることの多いこのゲームで有効活用しました。

まとめ

前述のとおり『Psychonauts 2』のレベルはどれも非常にユニークです。2つのレベルには2D横スクロールの部分があり、それぞれデザイン性が異ります。読み込まれているレベルはWwiseのステートを利用してWwiseに随時通知されます。これにより、プレイ中のレベルに応じてサウンドエフェクトを簡単に変更させることができます。Cassieの書物の中の横スクロールのレベルとHollisのハート(心臓)レースはその典型的な例で、使用するイベントコールは同じでもレベルによってオーディオが変わります。

このゲームでは可能な限りそのルーツを維持しながら新しい要素を多く追加する必要がありますが、Wwiseのおかげで複数年にわたる開発サイクルにも関わらず、異なる独自システムやビジュアルを維持することができました。ブログの執筆を依頼してくださったAudiokineticに感謝しています。このブログがみなさんのお役に立てることを願っています。 

Double Fine

Double Fine

ゲーム業界のベテラン、ティム・シェーファー(Tim Schafer)が2000年に設立した受賞歴あるゲーム開発スタジオ。サンフランシスコのSoMA地区を拠点とする。独創性、ストーリー性、キャラクター、そして遊び心を重視した高品質のゲームを生み出す。

 @DoubleFine

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