インタラクティブゲームと目の不自由な方のためのアクセシビリティ

ゲームオーディオ

はじめに

マーテー・モルドバンと申します。私はビデオゲームのサウンドデザイナー、コンポーザー、オーディオインプリメンター、そしてプロダクションマネージャーをしています。このブログでは、私の知見や実装の技術的なコツを詳しく紹介し、ダイナミックオーディオの実装を通して目の不自由な方がゲームを利用できるようにするための情報や手法をゲームオーディオの専門家向けにまとめています。AudiokineticのWwiseで明確かつ論理的なゲームを設計してゲームプレイの内容をプレイヤーに伝えることで、すべての人にさらに楽しんでもらえるようにしたいと思います。

このトピックについてはゲーム開発の記事で取り上げられる機会が増えておりますので、私はアクセシビリティの向上に繋がるゲームオーディオの各コンポーネントを切り離してゆきます。目の不自由な方のゲーム体験を改善するために、ゲームに取り入れるべき音の種類やオーディオ動作のシステムについて理解を深めていただきたいと思います。さらにこれをWwiseで達成するためのコツや裏技も同時にご紹介します。

この文章に記載された情報はすべて「A Sound Effect」ですでに出版されている私の記事の修正・拡張版であり、こちらでご覧いただけます:https://www.asoundeffect.com/game-audio-blind-accessibility/

なぜ目の不自由な方のプレイヤーアクセシビリティを気にかける必要があるのか

昔からビデオゲームは日々の苦しみから逃げることのできる場を与えてくれました。プレイヤーはゲームをしながらリラックスし、認知能力や問題解決能力が向上し、次から次へとタスクをこなそうと励まされ、実際にやる気も起きます。今日のゲームストアにはあらゆるニーズに応えるさまざまなジャンルが揃っています。アクション、アドベンチャー、アクションアドベンチャー、RPG(ロールプレイング)、アクションRPG、シミュレーション、戦略、パズル、スポーツなど、あげるときりがありません。基本的に無限であり、誰もがお気に入りのゲームを見つけることができるはずです。

このような新世界やキャラクターたちが出現する最新ゲームは、リアルなビジュアルに目を見張るばかりです。魅力的なグラフィックを無料ゲームエンジン(Unreal 4・5、Unity、CryEngineなど)で達成することができますが、すべてのゲーマーたちがリアルなビジュアルを楽しめるわけではありません。

目の不自由な方が頼りにするのは映像より、環境からくる聴覚的フィードバックやハプティックフィードバックです。ゲームとしてはプレイヤーを仮想世界の中に配置したいのですが、目の見えないプレイヤーをその中に引き込むためには、より現実的で助けになるオーディオ動作に繋がるさまざまな技術やシステムを試し、エクスペリエンスの没入感を高めるナビゲーションツールを実現する必要があります。

これを最近のゲームでどのように行っているのかを見ながら、オーディオ動作の強化によるゲームプレイ全体の改善点や、このシステムをWwise内で再現する方法を見てゆきます。 

サウンドカテゴリー 

担当するゲームのサウンドアセットを作成する前に、ゲームの雰囲気をつかむためにスポッティングセッションを行うことになるでしょう(1人で、またはディレクターやリードデベロッパと共に)。ゲームに必要な音のカテゴリーを指定し、それらのカテゴリーが目の不自由な方のゲームプレイ体験にどう役立つかを考え出す絶好のチャンスです。

最もよくあるのは以下のようなダイアログ、サウンドエフェクト、アンビエンス、そして音楽のカテゴリーです:

  • ダイアログつまり会話は主に物語を先にすすめ、ロールプレイの没入感を高めるために存在します。目の見えるプレイヤーにも見えないプレイヤーにも邪魔にならない程度のダイアログ設計を意識することが望ましく、そうすることでアクセシビリティ向上に繋がるダイアログがデフォルトでゲームに含まれます。さらにガイドとなる追加の台詞もゲームに実装し、メニュー画面でオン・オフさせることもできます。 
  • サウンドエフェクトとUIは主にインタラクティブなゲームオブジェクトを示すために使われ、ユーザアクションに対して聴覚的フィードバックをリアルタイムで提供します。これらの機能はゲームメニューでオン・オフできるようにすべきです。 
  • アンビエンスはゲーム世界への没入感を高めるために、ゲーム世界のすべてのサウンドのための土壌をつくり出します。巧妙にデザインされた詳細でインタラクティブなアンビエンスをデフォルトでゲームに入れるべきです。 
  • 音楽は物語を支えてゲームに躍動感を与え、ゲームの流れや没入感を向上させます。 よくデザインされたドラマチックあるいは遊び心のある音楽にとどまらず、必ずインタラクティブな音楽をデフォルトでゲームに含めるべきです。 

以上のサウンドカテゴリーを基に目の不自由なプレイヤーにもゲームをプレイしやすくするための、個々の作業内容を分類してゆきます。カテゴリーをさらに細分化するためには、プレイヤーが最も使うであろうゲームのしくみを明確化する必要があります。

ダイアログ

ナビゲーションとトラバーサル 

ゲームのダイアログは一般的にアクセシビリティ手段として設計されていませんが、キャラクターダイアログではプレイヤーの状況を説明することにより目の不自由な方の没入感を高め、移動しやすくしてくれることが多いです。NPC、アナウンス放送、生き物たち(その他いろいろ)はプレイヤーに方向を教えることができ、デフォルトでゲームに入れることができます。ファイトやローミングなどのゲームステートの前後に、補助する形でファイトのダイアログキュー(例えば「よし、気合を入れていくぞ!」や「危なかった、やられるところだった!」)を入れることもできます。ステートが頻繁に変化しないゲームではゲーム内シネマティックスでステートを分割し、シーンの様子をダイアログで表すことができます(『The Last of Us Part 2』の例のように)。ステートの切り替わりを示す台詞のタイミングや音量も非常に重要です。

悪い実装例:

私はこのテクニックを採用したゲームをプレイしたことがあります。ところがプレイヤーキャラクターの「気持ちの台詞」がファイティングステート中にも聞こえ、ファイティングステートであるため音楽が大きくなる一方「気持ちの台詞」の音量は大きくならないため、非常に聞き取りにくくなりました(ファイト中にプレイヤーが聞きたいのはプレイヤーキャラクターの気持ちではないということも、言うまでもありませんが)。この実装ミスでライターの仕事が無駄になったばかりか、音声による台詞が逆効果となり、ファイトステートが必要以上に混乱しました。問題は音量の実装方法だけでなく、実装ロジックそのものであることがお分かりいただけると思います。ファイトミュージックの再生中にキャラクターの気持ちを再生し続けるのではなく、ファイトミュージックのイベントがトリガーされた時はWwiseのEvent EditorのPauseコマンドで「気持ちの台詞」を一時停止させ、ローミングステートが再度アクティブになった時はEvent EditorのResumeコマンドで「気持ちの台詞」を再開させるという手があります。

プレイヤーはゲーム世界で動き回る前にメニューからゲーム世界に入りますが、目の不自由なプレイヤーはメニューとゲーム世界の両方において操作情報を必要とします。『Mortal Kombat 11』はメニューのアクセシビリティ成功の好例であり、専用のナレーション付きメニューでいままで以上に目の不自由な方がプレイする際に操作しやすくなっています。

FIFA21』のようにアクセシビリティ選択肢の専用スペースをゲームのメニューで簡単に見つけられることは、目の不自由な方にとって大変助かります。 

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It Takes Two』のように初回起動時にアクセシビリティ設定が表示されるようなゲームはさらによいです。

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はじめて『It Takes Two』を起動した時に表示されるアクセシビリティメニュー

パズルや目的物のヒント 

パズルがあったりゲームクリア前の達成目標があったりする場合、やるべきことをプレイヤーに教える巧みなヒントの提示が必要です。ダイアログはパズルレベルのヒントを教える簡単な方法であり、その他のサウンドに支えられていないシーンや、分かりにくい場面などにおいてもヒントとなります。ダイアログ内容は主人公の心の中の会話、ナレーターやストーリーテラーの声(インタラクティブ音声による説明)、ほかのゲーム内キャラクターやNPCとの会話(『アンチャーテッド』シリーズや『レッド・デッド・リデンプション2』などがすばらしい例)、音声読み上げ機能などがあります。 

コンバットや反射神経に繋がるヒント 

シューティングやファイティングのメカニズムがゲームの中核となっている場合、コンバットや反射行動を促すヒントを音で追加する必要があります。複数のサポートキャラクターが出てくるゲーム(JRPG、マルチプレイヤーシューティングゲームなど)や、おしゃべりなメインキャラクターのゲーム(『Spiderman』『アンチャーテッド』シリーズなど)は、タイミングよく警告する叫び声なども有効です。すでに多くのサウンドエフェクトや大音量の音楽がファイトシーンでひしめいている場合は混乱しかねないため、タイミングや音量に注意し、各種サウンドの優先順位を決めるすっきりとしたシステムや適度なダッキング・サイドチェイン制度を導入し、実行音ができるだけ自然に聞こえるようにする必要があります。 

ダイアログ関連のその他の注意点 

  • ゲームで音声読み上げ機能を有効にした場合、必ずゲーム世界で発生した会話がある時はでダッキングさせます。音声読み上げ機能よりゲーム世界で起きたダイアログを優先させます。ダッキング機能のパラメータはAudio Bus Property EditorのAuto-duckingタブで設定することができます。
  • UIナレーションは目の不自由な方がゲームをプレイする上で最も重要な音声機能の1つです。メニューフォントの文字だけでなく、ゲームプレイのUI文字も認識する必要があります。プレイヤーは手持ちの弾丸数、残りのヘルス、自分のスペシャルパワーなどを知る必要があります。 
  • 可能であればテキストの読み上げ機能をオン・オフする専用ボタンをキーボードまたはコントローラに別途設けるか、すべてのボタンを割り当て可能にした上でテキスト読み上げのトグル機能を作成します。

サウンドエフェクト

ナビゲーションとトラバーサル

サウンドエフェクトはトラバーサルゲームのアクセシビリティにおいて重要な役割を担います。崖っぷちで足を踏み外すのを防ぐためのオーディオやバイブレーションのフィードバックといった機能的オーディオキューや、プレイヤーの一定半径内にいる敵や目的物を強調するための拡張リスニングモードなど、トラバーサルやコンバットに関連する便利なキューを取り入れることで、どのようなゲームにおいてもアクセシビリティが劇的に向上します。ゲーム内もメニュー画面上も、ナビゲーションを助けるために特に重要です。メニュー操作では音声やUIナレーションが好まれますが、サウンドエフェクトを使用して認識上の情報を伝えることもでき、例えば何かをトグルして切り替える時や、メニューを掘り下げていく時(例えばPlaystationのメニューUI音)や、トグルして何かをオフにする時やメニューを閉じる時の効果音の逆バージョンなども有効です。

ゲーム内のナビゲーション補助として最もよく使われるオーディオキューはソナー探知機のような音で、目的物の反響の場所から次の目的物または正しい通り道の方向を察知します(『The Last of Us Part 2』の2Dステレオパンニングや3Dオブジェクトベースサウンドのように)。プレイヤーが滑らかに移動することを防止する障害物が目的物方面にある場合、『The Last of Us Part 2』のように追加のオーディオキューでプレイヤーに警告する必要があります。 

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『The Last of Us Part 2』拡張リスニングモード。トリガーするとプレイヤー周りのスウィープをソナー音で行いますが、このモードを有効にしている間はその他アンビエント音がフィルターで除外されるため、近くの敵の音が聞こえやすくなります。

インタラクティブオブジェクトやコレクションオブジェクトが近くにあることをプレイヤーに知らせ、その方向へ向かわせるためには、収集やインタラクションを行うまで減衰つきのオーディオキューをループさせることが、いま採用できる最も効果的な手段です。3Dオブジェクトベースのサウンドでは発想の転換で距離パラメータに長い振幅を付け、近づくにつれ音をシャープにしてプレイヤーがオブジェクトに接近していることを強調することができます。『The Last of Us Part 2』ではトランジェントのないソフトなUIビープ音のループを使い、ある程度近づくとループイベントを停止させ、同じ音のトランジェントのあるものを再生しています。プレイヤーがトリガーボックスの半径から出た時に目的を達成できていない場合は再び、控えめなビープ音のループがはじまります。

通り道にあるそれ以外のオブジェクト(ドア、狭い隙間、崖っぷち、水面など)は、UIのオーディオキューと共にインタラクティブオブジェクトを思い出させる音を再生します(施錠されていないドアに近づく時は「よく見て!」を意味するUI音の後にドアのきしむ音、施錠されている場合は錠のガタガタという音など)。仮想動作、ナビゲーション、アクションなどを示す音、つまりiconosonicsについて、ゲームオーディオ業界ではあまり議論されていない気がするため、ここで少し詳しく説明したいと思います。

音がビデオゲームに遍在するからこそ、音なしでは察知しにくい情報をプレイヤーに伝えたり視覚的なヒントを支えたりする極めて強力なツールとなります。声はゲーム内を移動するプレイヤーを助けるためのすばらしい方法です。ただし情報を内包させて鳴らすことのできるサウンドエフェクトや音楽と比べると、言葉は発してから聞く側が内容を理解するまでに時間がかかります。アクションを促す「言葉なし」の音をつくり出すためにはサウンドエフェクトや音楽こそ完璧な手段であり、ゲーム内のトレーニング時間も短縮できます。知らせようとするイベントと同時にiconosonicエフェクトをトリガーすることが効果的であり、人間の脳が絵や音を新しい単語として学習する時のように、プレーヤーは音を知り頭の中で意味に結びつけることができます。繰り返すこともiconosonicsの活用において重要であり、新たな言語として音が再生されるたびに意味の習得や認識が上達します。ジャンルに合った音を使用することはスタイルの観点からも重要であり、同じジャンルのゲームで使われていた音は覚えやすく、認知的な繋がりが脳内で早くできあがります。分かりやすい例が『Metal Gear Solid』のアラートサウンドエフェクトであり、非常によく似たリメイク的な音が別のゲーム『サイバーパンク2077』においても、敵に見つかってしまったという同じ意味でプレイヤーを警告するために使われています。

『The Last of Us Part II』のサウンドデザイナーはオブジェクト選択をすばやく行えるように、UIカテゴリーに属する「注意して」のスティンガーを使った後にアクションを示す音を再生しており、実際のiconosonicを再生する前にはっきりとした信号を出し、その音をバックグランドサウンドから切り分けて認知できるようにしています。

プレイヤーのアクションが成功したかどうかをオーディオフィードバックとして必ずプレイヤーに伝えるために、ジョブ完了時や次の目的物に到達した時は確認音(「お疲れさま!」と肩を叩くような感覚)を再生する必要があります。カットシーンやゲーム内シネマティックスの後はプレイヤーの背中を押してあげるような音を再生し、アクションを取る必要があること(前にすすむ、特定のボタンを押下など)を伝えます。次の動画では手紙を読んだ後に微妙な「ウー」音が鳴り、先にすすんでもよいことをプレイヤーに伝えています。 

Wwiseでの設定は簡単で、ステートの変更でトリガーされる後押し音のイベントを追加すればよいのです。

アクセシビリティ向上のナビゲーション機能を無意識のうちに提供している好例が『Gears 5』であり、Hordeモードでプレイヤーがファブリケーターを守らなければならない場面があります。ファブリケーターの位置を探知するピッ音を発信した時に、プレイヤーとの距離に基づいて音のピッチが変わります。ファブリケーターに近づくほど、ピッ音のピッチが高くなります。これを実装するためにはRTPCにVoice Pitchパラメータを設定し、プレイヤー距離によってピッチを変えたいアイテムにこのRTPCをアタッチすればよいのです。このRTPCを組み込み距離パラメータにバインドすることで、コードの知識がなくてもこのようなシステムを実装することもできます。 

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ピッチを徐々に高くする代わりに、プレイヤーが近づくにつれ速度が速くなるループ音を使うこともできます。ループ音をInteractive Music Hierarchyに入れ、アイテムにPlayback Speedパラメータ付きのRTPCを適用してください。

Hades 』(2020年)ではゲーム世界のオブジェクトの大半が3D空間に配置された音です。敵はファイト中に音を出し、ダイアログの進行中は音楽やサウンドエフェクトがダッキングされます。敵を殺した後にアイテムからループする鼓動音が、プレイヤーが収集するまで流れます。どれもよいものばかりで、必ずしもアクセシビリティ関連ではありませんが、プレイヤーのナビゲーションを助ける例です。 

パズルや目的物のヒント 

前述の通りインタラクティブなオブジェクトや収集対象のオブジェクトの近くに行くと、目的物のヒントとしてループするキューやワンショット型の音を再生することができます。これらの音をゲームのしくみや認知の論理と密接に連携させる必要があり、ゲームスタイルに合わせて2DのUI音や3Dオブジェクトを使うことができます。

これらのヒント音はクイズ風のアクティビティを彷彿させるものであり、トラバーサル用の音と区別すべきです。パズルのヒント音は多くのゲーム(『Uncharted』シリーズなど)ですでに使用されており、必ずしもアクセシビリティ音に分類されませんが、デベロッパは一定時間が経過した後に、あるいは間違ったアクションを一定回数以上行った場合にこれをトリガーさせるだけでなく、アクセシビリティ機能を有効にした場合はすぐに、または1回目の失敗以降にトリガーさせることもできます。1回目と2回目の後は音を再生せず、3回目の後だけに再生するためには、Wwiseのシーケンスコンテナを使用し、最初の2つのスロットにWwiseサイレンスを設定すればよく、こうすることでプレイヤーがアクションを3回繰り返した時にはじめて音が再生されます。デベロッパはプレイヤーに挑戦させたいと考え、目の不自由な方もプレイすることに挑みたいと思うため、ちょうどよいバランスを見つけることが難しいのですが、取るべき行動をプレイヤーに完全に理解してもらうためにはパズルや目標の一部要素を説明する必要があるかもしれないことを、デベロッパが頭に入れておくことが重要です。

コンバットや反射神経に繋がるヒント 

ダイアログキューの場合と同様にコンバットのサウンドエフェクトも、ファイトシーンがすでに混みあっておりゲーム世界のサウンドエフェクトや大音量の音楽で賑やかな場合は、混乱を招かないようにタイミングが重要です。すでに混雑しているミックスの中でこれらのサウンドエフェクトが目立つように、「こちらに注目!」的な注意喚起でコンバット関連のほかの音と区別させなければなりません。これらのヒント音は2Dステレオパンニングまたはモノラルに抑えておくことが賢明です。別の方法としてこの音をボタンに論理的に紐づけ、例えば完璧なタイミングで押下しなくてはならないドッジ(身をかわす)ボタンとして設定することができます。ここでドッジボタン(ファイティングステート)と伏せボタン(ローミングステート)を同じボタンにする場合、アクセシビリティ機能のトラバーサルボタン音の攻撃的バージョンを使うことで、トラベル機能のボタン音を1つ借りてコンバットシーンでより重要な役割のために使うという方法が成立します。

照準アシスト

照準を合わせる時にスコープに現れる敵をオーディオキューで強調することもでき、例えばスコープを合わせている時に継続的なループするピッチやノイズなどを使い、クロスヘアに敵が重なった時に金属探知機のようにピッチやボリュームを上げることができます。RTPCのPitchパラメータを距離(敵のクロスヘア、つまり方位角からの距離)で変化させることもよい対処法です。私の調査ではクロスヘアに敵がいる時にオーディオキューを再生し、耳に働きかける照準アシストを1番効果的に使っているゲームは『The Last of Us Part 2』です。最近のシューティングゲームでは元の銃の発射音に重ねて、命中した弾丸を表す短いホワイトノイズや高周波音のフィードバックが別のレイヤーとして追加されます。具体的な実践方法は複数あります。スコアシステムに付随するスイッチ(ターゲットに命中した時に高周波サンプルを選択するスイッチ)であったり、高周波弾丸サウンドにボリュームパラメータを配置し、命中した時に限りそれを開く(サンプルを聞こえるようにする)方式であったりします。空の弾丸ヒットと命中した弾丸ヒットを別々のイベントに分けるためにゲームエンジン上で直接コーディングすることもできます。また敵を殺した時に専用“キル・スティンガー"を再生し、攻撃が成功したことをプレイヤーに示すことができます。目の不自由な方にとっては敵が死んだ時に知る方法がないため、これは非常に重要です。

パンチやキックなどのファイト動作も、目的物に当たった時と空を切っただけの時で音を変えるべきです。『Mortal Kombat 11』の最も重宝されるアクセシビリティ機能(ナレーション付きメニュー以外)は、ファイト動作ごとに音が異なることです。目の不自由な方が目の見える友人と競い合って打ち負かすこともでき、一緒にゲームを楽しめます。

音楽

ナビゲーションとトラバーサル

音楽ステートで区分けできるような場所もあります。例えばビーチ、続いて山、さらにその先に村落があるような場合は、これらを音楽ステートで分けることができます。音楽レイヤーを追加してスペーシャリゼーション(3Dオブジェクトベース方式)を適用して減衰させることで、行く手が開いている様子を感じてもらうことができます。『A Plague Tale: Innocence』(2019年)ではゲーム内の警告信号として音楽を非常に巧妙に設計し実装しています。プレイヤーがローミングしている時は音楽が全体的にリズムなしで流れ、ステルス状態にあるゲームを支える静かなアンビエンスベッドのような役割を果たします。やがてプレイヤーが敵に近づくにつれ、音楽のインストゥルメントレイヤーの一部が劇的な変化を遂げ、リズム感のあるチェロやパーカッションがミックスの中で徐々に大きく頻繁に聞こえます。ナレーションに色を加えるツールであったはずの音楽が、一瞬にして組み込みアクセシビリティ機能のオーディオキューに変容し、ゲーム世界の中を移動するプレイヤーは目の見える人も見えない人も助けられます。インストゥルメントを空間に配置することでプレイヤーを新たな目的物に誘うこともできます(例えば音楽のBPMと揃ったフルートのコード進行のレイヤー4つにボリュームのRTPCを適用することで、プレイヤーが目的物に近づくにつれ音楽に編成されるフルートのレイヤーを増やします)。 

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ほかにも気の利いた作曲の技があり、例えば映画『カール爺さんの空飛ぶ家』では家が風船で浮き上がる時は上がるアルペジオ、降下して地に戻る時は下がるアルペジオが使われています。状況に依存しているのですが、よく作曲された(そしてうまく実装された)音楽を軽視してはいけません。その代表が「ミッキーマウジング」であり、ナレーションツールとして利用できます(『Rayman Legends』では絶妙に活用されており、ゲームプレイがすばらしく楽しくなっています)。

パズルや目的物のヒント 

サウンドエフェクトと同じく音楽も特定のアクションをプレイヤーに提案したり、クイズ的な環境において決断を促したりすることができます。Hans Zimmer氏が自身のマスタークラス(https://www.masterclass.com/classes/hans-zimmer-teaches-film-scoring)でQA方式を解説しているように、実施方法が適切であれば作曲の技術はゲーム作品においても、非常に便利で楽しい機能を展開してくれます。そしてもちろんゲームの状況によっては、プレイヤーがパズルのステートにいる時にちょうど合う音楽を流すことで、プレイヤーは刺激を受けて楽しみながらパズルを解こうという気になります。(https://www.youtube.com/watch?v=Uc32TpW7Zpw&ab_channel=GarryThompsonGarryThompson)

コンバットやローミング中のヒント 

アクション中心のシューターやステルスゲームの大半では3つの主要ステート、つまりコンバット、ローミング、そしてカットシーンで音楽が切り替わります。音楽的なステートの切り替えにトランジショントラックを取り入れることで、より面白くなります。これは目の不自由な方にとってゲームの可否を決める最も重要な要素であると思いますが、現在のゲームステートを確認して次のゲームステートを把握するための助けとなり、武器をつかむ時間の余裕をプレイヤーに与えてくれます。この時に音楽がつまらなくならないように、音楽のレイヤーやインストゥルメントを数種類揃え、ランダムにリピートさせることを推奨します。同様にゲーム『Hades』(2020年)では2つの主要ステート、つまりローミングとコンバットがあり、その間で音楽を切り替えていますが、ほかにも第3のステートがあり、ここでは音楽が全くないか非常に静かに流れておりプレイヤーがゲームのストーリーを語るダイアログに集中できるしくみになっています。

アンビエンス

ナビゲーションとトラバーサル 

3Dゲームではアンビエンスやサウンドエフェクトの細かい部分に気を配るだけで、ナビゲーションが容易な環境が成立します。スペーシャリゼーションを適用した部屋、コンボリューションリバーブ、ダイアログの正確な量の反響、オーディオオブジェクトなどの組み合わせが、動き周りやすいゲーム環境に繋がります。例えば砂浜には波音があり、カモメ、船、場合によっては人もいます。一方で洞窟の中は長いリバーブ、こだま、ぽたぽたと滴るしずくなどが聞こえますが、全体的に静かです。Wwise Spatial Audioプラグインは精度の高い音響条件を必要とする環境(特に屋内環境)を構築する際、非常に役に立ちます。

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Unreal 4でWwise Spatial Audioプラグインを使用

ゲーム内の環境自体がナビゲーションツールとして機能するような設計も可能であり、例えば風、川、洞窟の反響音、プレイヤーが後を追う必要のある小さな生物などは、目の不自由な方にとって非常に役に立つこともあります。洞窟内の通路をすすむ時に聞こえてくる風のピッチ、強さ、音量などから、プレイヤーは風のくる方向を把握して洞窟の出口位置を推察できます。風のピッチ値をプレイヤー位置に依存する方位角パラメータによって変調させ、出口に近づくにつれボリュームを徐々に大きくすることができます。Wwiseのブレンドコンテナを使用してプレイヤーから出口までの距離に基づいて、静かな風から強い風のオーディオサンプルにフェードインさせることで、「風の発生機」をナビゲーション用フィードバックとして代用することができます。

パズルや目的物のヒント 

パズルゲームのレベルデザインが音の空間を考慮している場合、リバーブやフィルターを正確に適用することがパズル解決の大きなヒントとなることがあります。例えばゲーム『Superliminal』(2019年)においてはアイテムが小さい時の音は小さくピッチも高く、大きさが拡大されると音は低く重くなります。これらのサウンドエフェクトが部屋の空間に送信された時にオブジェクトの大きさに応じてリバーブやエコーも変化するため、そのサイズ感が伝わります。

コンバットや反射神経に繋がるヒント 

敵を水に沈めておぼれさせたり崖っぷちから突き落としたりするなど、コンバット場面において環境を利用するゲームにおいては、環境に存在する能力を音で表現し感じさせることにより、プレイヤーは取るべきアクションを音から連想することができます。 

アクセシビリティ向上に繋がるその他オーディオイベント

  • ゲームメニューにオーディオチャンネルごとのスライダーを提供します。音楽、サウンドエフェクト、ダイアログ、アクセシビリティ音(またはオーディオキュー)、モノラル・ステレオスライダー(耳の不自由な方用)などです。ダイアログが聞き取りづらいと感じた目の不自由な方は、音楽の音量を下げることができます。ボリュームスライダーの理想的なデフォルト音量については活発に議論されていますが、多くのゲームでは最初に100%としてあり、例外的に音声読み上げ機能のデフォルト設定は50%または80%が一般的です。
  • 音や音楽の設定は重要なオブジェクトやイベントごとに選択できるようにします。 
  • エフェクト、声、バックグランド、音楽について、個別のボリュームコントロールまたはミュートを提供します。 
  • ステレオとモノラルのトグルを提供します。 
  • 声の再生中はバックグランド音を最小限に抑えます。 
  • バイノーラル録音をシミュレーションします。 
  • すべてのオブジェクトとイベントに、異なる音や音楽デザインを使用します。 
  • ソナー探知機のようなパルス音を発することのできる「オーディオ地図」を提供します。 
  • メニューやインストーラを含むすべてのテキストを読み上げて収録し、ボイスオーバーとして提供します。 
  • サラウンドサウンドを使用します(おそらく3Dゲームオブジェクトの空間的な配置と、正確な減衰曲線も関係してきます)。 
  • 音声付きGPSを提供します(上級編)。 
  • 重要な情報の伝達手段が音だけにならないようにします。 
  • 音声解説トラックを提供します。

まとめ

目の不自由な方がアクセスしやすいゲームをつくる上で、万能な方式など存在しないことは明らかです。実際にアクセシビリティ機能のオーディオキューには多様な使い方や実装方法がありますが、4つのカテゴリーに分けて考えた方が得策であると判断しました。ダイナミックミュージックを使用してゲームの状況やストーリーをプレイヤーに伝えることができます。音楽はゲームメカニズムに関連するメッセージを補助し、音楽スティンガーや警告がプレイヤーのナビゲーションに役立つことも見てきました。位置がよく分かるオーディオキューに、精度の高いコンボリューションリバーブ、減衰曲線、空間情報などを適用することで、目の不自由な方はゲームの中を動き回りやすくなり、サウンドエフェクトという分類の中では特にソナー探知的なパルス音が最も効果的なナビゲーションツールであることが分かりました。ここに記載したソリューションはすべてWwiseを使いゲームに実装することができ、Wwiseの各種サンプルプロジェクトはアクセシビリティ体系をプロトタイプ化するための恰好の場です。https://www.audiokinetic.com/education/samples/

ゲーム業界に既存の規制があり準拠する必要があることを、インディーゲームデベロッパの大半は知りません。この記事で説明した内容がゲームデベロッパやゲームオーディオ職人の間で共有され、目の不自由な方のゲーミング体験を支援するためのアクセシビリティ機能を盛り込んだゲームが、今後開発されていくことを願っています。これは業界のサウンドデザイナーのみなさまに働きかけるためのガイドラインや既存テクニックに過ぎず、アクセシビリティを考慮したオーディオシステム作成の独自ソリューションを考案するきっかけとなればと思います。

参考文献、リンク

マーテー・モルドバン

マーテー・モルドバン

ゲームのサウンドデザイナー、オーディオインプリメンター、コンポーザー。Nemesys Games(ハンガリー)のゲームプロデューサーとして活躍中。音を通して物語を表現することに情熱を注ぎ、インタラクティブゲームオーディオ技術を駆使し、ゲームにさらなる生命を吹き込みます。

 @matemoldovan

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