Wwiseライセンスと製品価格のフィロソフィー

ゲームオーディオ

- 気になるしくみ -

世界中のスタジオの裏側では、Wwiseの製品価格モデルがやや複雑過ぎるとささやかれているようです...。これについて完全に間違っているわけではありませんが、誤った情報や古い情報が多く出回り、質問することを少なからず躊躇してしまう面もあり、実際には多くの人々が想像するほど分かりにくいものではありません。そこで私がこのブログでベールを外し、Wwiseライセンスが各種プロジェクト・スタジオ・業界に、どのように対応しているのかを説明したいと思います。

基本の説明

まずはじめに、スタジオは2つとして同じものはなく、プロジェクトは2つとして同じ条件のものはありません。このため小規模なスタジオから最大規模のAAAチームに至るまで、さまざまなニーズがあり、それらに応えつつ誰からも好かれるような超シンプルなライセンスモデルを構築することは、実に難しい挑戦です。(Protip:テックにお金を払いたいと思う人はいません。)さらにサードパーティ技術のエコシステムが加わることにより、複雑さが増します。

Audiokineticは初期の頃からプロジェクト単位、プラットフォーム単位のライセンスモデルを導入しました。これは長い間、問題なく機能しました。手段も予算も豊富なチームはより多くを支払い、予算の少ないチームは支払い額も少なくなります。お金のないチームがWwiseで使える機能を制限することは、絶対に避けたいと最初から考えていました。予算があっても音響がシンプルなタイトルよりも、低予算でありながら音響面で野心的なゲームの方が、実は多くの機能を要する可能性があるため、すべてのチームがWwiseのパワフルな機能をフルに使えるようにしたいと常に考えてきました。

この約束を私たちは今日も守っています。かつての「限定商用ライセンス」(別名「スターターライセンス」)の時代でさえ、機能セットを限定することはありませんでした。制限したのはチームが使用できるアセット数だけであり、その理由はオーディオに労力とリソースを費やして投資できるほど重視しているチームは、最も低価格の私たちのライセンスを購入する余裕もあるであろうと考えたからです。

ご存知の通り、あとから採用されたインディーライセンスに伴い、この制限はもうありません(詳しくは後ほど)。

でははじめに、プロジェクトの登録手順から説明します。

プロジェクトの登録

Wwiseのいわゆる「正式」な使用はすべて、プロジェクトを登録するところからはじまります。簡単に説明しますとAudiokineticのウェブサイトでアカウントを作成し、「はじめてみよう」をクリックし、次に「プロジェクトを登録する」をクリックします。 

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手順通りにすすめてください。学術研究、非商用ゲーム、インディー予算のタイトル、トリプルI・トリプルAタイトルなど、どれも登録手順だけでなく法的なライセンス契約まですべて同じです。登録画面においてゲームの内容、開発スケジュール、プラットフォーム、予算などについて少し教えていただき、Audiokineticによる承認が行われるとすぐに使いはじめることができます。

とても大切な注意事項:プロジェクト登録の際にどの選択肢を選んだとしても、必ず提供されたライセンスキーを実際に使ってください。方法は簡単で、あなたのプロジェクトページにアクセスしてライセンスキーをクリップボードにコピーし、Wwise License Managerにペーストするか、LauncherであなたのWwiseプロジェクトとあなたのライセンスキーをリンクさせるだけです(プロジェクト横にある小さな鍵アイコンを使用)。自分のプロジェクトページにすばらしく有用な評価用キーが待機しているにもかかわらず、それを使用しないため未だアセット制限があると思い込んでいるチームが、びっくりするほど多くあります。

プロジェクトの登録後、ほかの人をプロジェクトに招待できます。あなたが必要だと思う人を誘ってください。プログラマー、サウンドデザイナー、コンポーザー、オーディオプログラマー、プロデューサー、さらにエクゼクティブプロデューサーやその他の業務上の関係者まで含めることができます。あなたのプロジェクトで誰が何をしているのかなどの情報を、Audiokineticがよりよく把握している方が助けやすくなります。私たちのシステムに登録されているユーザが1人だけで、そのユーザが退職してしまい、ほかのチームメンバーがライセンスキーの更新方法をまったく知らないような状況があまりにも多くあります。

評価段階

私たちの評価プログラムで理解していただきたい重要な点が、非常にオープンであるということで、あなたの開発スケジュールに基づいて合理的な期間は、無償評価をご提供します。

商用ゲーム(または商用目的のプロトタイプ)をつくる際、最も重要となるのがスケジュール情報です。主にAudiokineticが「プリプロダクション終了予定日」と呼んでいるものです。スタジオによって定義が異なるため、この用語は少し難解に感じられるかもしれません。プロトタイプ段階の終わり、あるいはゴーサインが出る日と考えてください。予算を確保でき、自分のゲームが見えてくるタイミングであり、場合によってはパブリッシャがいるかもしれません。パブリッシャに売り込むためのバーティカルスライスを構築するチームもありますが、それは問題ありません。そのパブリッシャを確保することができ、あなたの開発を先にすすめることができるようになるまで、ライセンス購入を求めません。あなたが必要とする限り、評価段階を継続させてください。

ただし永遠に評価を続けてよいというわけではありません。「いまはお金を払いたくないから、代わりにリリース時にライセンスを購入してもいい?」と考えているのであれば、それは私たちのライセンスモデルのしくみに合っていません。私たちが提供する評価の柔軟性は非常にフェアであると信じていますが、ビジネスであることも事実です。

前述の通り、最終的に商業的な意味を持つプロトタイプをつくるのであれば、通常の商用評価が適切な方法です。計画予算が「プロ」ティアまたは「プレミアム」ティアに該当するようであれば、評価の段階から一定の直接サポートをご提供することができ、あなたのオーディオシステムの品質を最大限に引き出すために協力できます。

いざこの重要マイルストーンに到達した時は、ライセンスコストについてのご相談に応じますが、ウェブサイトにも非常によいガイドラインを掲載していますのでご参照ください: https://www.audiokinetic.com/pricing/for-games/ 

非商用ライセンス

実際に非商用の仕事をしている場合を考えます。例えば社内ゲームエンジンのメンテナンス、修士論文のための作品、お金を儲けることのない公共の利益のためのエクスペリエンスなどです。これらは純粋な非商用ライセンスに適した候補となります。

このような場合は完全に無料です。どのプラットフォームの場合でもそうです。プレミアムプラグインは必要なものを使えます。アセット数もつくりだせるだけ使えます。営利目的でないこと(広告スポンサーなし、後援企業とのマーケティング提携なし等)以外に制限はありません。

プロジェクトを登録しますとリリースまで利用できる非商用キーが提供される上、必要に応じてリリース後も利用できます。

線引きが微妙なケースでは遠慮せずにお問い合わせいただきたいと思いますが、もし商用性があるのようでしたら...「支払い性」も生じるかもしれないと考えてください(まさかこんな単語がスペルチェックに引っかからないとは)。 

インディーライセンス

小さなスタジオで商用ゲームを開発中であってもどうぞご心配なく!「インディー」ティアがあなたのために設定されています。プロジェクト開発予算が25万米ドル未満である場合、Wwiseを無償で利用できます。ただし定期的にAudiokineticが確認を行い、バランスをとります。ゲームのゴーサインまたはプリプロダクションのマイルストーンまで使用できるキーを、Audiokineticによるプロジェクトの承認時にご提供し、後で当初の計画予算が拡大されていないかを確認します。ここでリリース直前までライセンスを延長し、後から再度チェックします。リリース後はプロジェクト予算が増え続けインディーティアの上限を超過していないかを、6〜12か月ごとに確認します。

繰り返しになりますが私たちはできる限りフェアで寛大な対応を心がけていますが、ビジネスとして要所要所で確認をする必要があります(どれだけ多くの大作ゲームがインディーティアからはじめようとしたのかを、知ったとしたらきっと驚きますよ)。

以前も触れましたが、ここで注意事項を1点。もしあなたがより大きな予算を期待してゲームをつくる場合(例えばバーティカルスライスでは10万ドル程度を目標に構築し、後から実際のゲーム開発予算として300万ドルを獲得したいと考えている場合など)、プロジェクトをプレミアムティアに登録してください。そうすることで私たちは評価期間中もサポートをご提供できます。私たちもすべての無償ユーザに技術者レベルのサポート人材を提供することができませんから、インディーティアに登録することで自らを制限してしまいます。

各種有償のティア

各種有償のティアについては従来とほぼ同じです。最初のプロティアは予算25万米ドルから200万米ドルのすべてのゲームに対応します。こちらの価格も https://www.audiokinetic.com/pricing/for-games/ に掲載されており、ほかにもサポートパッケージ、プレミアムプラグイン、リリース後コンテンツライセンスなどの製品価格があります。

プレミアムティアは必然的ティアの最高レベルです。(必然的とは予算がこの範囲内であれば、それ以下のティアを利用できないことを意味します。)このティアは予算200万米ドル以上のゲームが対象です。ライセンスにはエンジニアによる1年間の無制限サポートが含まれます。

「プラチナ」ライセンスはティアというより、バンドルの一種です。開発期間中とリリース後6か月間の無制限サポートが提供され、追加料金なしでAudiokineticが開発したプレミアムプラグインもすべて利用できます。(連絡するだけであなたのライセンスキーに追加されます。)

Wwise製品価格に関するAudiokineticのフィロソフィー

さてここからが本題です。確かにライセンス設定はインディーズ、プロ、プレミアムと段階的ですが、段によっては差が大きくなります。段差が大き過ぎることもあります。私たちは常にあなたと一緒に、あなたに合った製品価格モデルを探し求めるようにしています。たいていの場合、定価は適しています。例えばWindows向けに700万ドルのゲームを開発する場合、プレミアムティアのシングルプラットフォームライセンスは非常にお得です。一方、6種類のプラットフォーム向けにPCまたはコンソールゲームを250万米ドルでつくるのであれば、もはや定価にお得感はありません。

ライセンス設定はある意味芸術であり、基本ルール(ティア)があったとしても、本当に満足していただくためには、必要に応じてクリエイティブにかたちづくってゆくこともできます。あなたが単一プラットフォームでの展開を目指している場合、私たちはWwiseがあなたの開発予算の1%を大きく超えないよう注意します。つまりインディーとプロの境目にあるようなWindowsゲームでは、かなり柔軟に対応する準備ができている可能性があります。厳密なルールではありませんがプラットフォーム2種では予算の1.25%程度、プラットフォーム3〜4種では1.5%あるいは1.7%程度、プラットフォーム5〜6種では予算の2%を大幅に超えないよう、私たちは心がけています。この枠を出るとなるとより理にかなった代替モデルがいくつかあります。(え、本当に8つのプラットフォーム向けにつくるの?すごい!)

結論としてあなたがWwiseの製品価格ページを見ながら、「これはうちには高すぎる」と感じるようであれば、その考えはそのままゴミ箱に捨て、すぐに私たちに連絡してください。納得のゆく製品価格とラインセンスモデルを必ず見出せると私は確信しています。

代替モデル

プラットフォームが本番になる時にライセンス料を支払う従来型の前払いモデルが合わないゲームには、代替モデルがいくつかあります。

最初に旧来のロイヤリティベースのモデルがあります。これはどのタイトルにおいても利用可能であり、粗利益の1%のロイヤリティに相当します。リリース前は費用が一切かからず、ゲームが売れはじめてから支払いが生じます。下限があるためゲーム収益が1万ドル以下(ロイヤリティにして100ドル以下)である場合、請求書が送られません。

次の代替モデルは、より新しいGaaSモデルです。その名の通りサービスとして提供されるゲーム(サブスク型タイトル、F2Pタイトル、広告収益タイトルなど)に実質限定されます。このモデルにおいても開発の全過程を支払いなしすすめることができ、リリースと同時に簡略方式の収益報告を出していただきます。基本的にはその月の収益がどのティアに達したのかを毎月報告していただき、四半期ごとに請求書をお送りします。上限を大きく抑えたロイヤリティ方式に相当し、たとえ月収が1億ドルに達したとしても(おめでとうございます!)、その10分の1の収益の場合と同じ支払い額となります。詳細はこちらをご覧ください:https://www.audiokinetic.com/pricing/for-games/?#gaas_license

これはF2Pゲームをモバイルやコンソール向けにリリースしようと考え、リリース前の資金をライセンス料金の前払いよりも別のことに使いたいと思う、スタートアップチームにぴったりの選択肢です。あなたのリスクを抑え、あなたが成功した時は、私たちも成功します!

ゲーム以外(または従来と異なる自宅ゲームやユーザデバイスゲーム)では、もう少しオーダーメイドとなります。ロケーションベースエクスペリエンス、非ゲームアプリ、VRアーケードタイトルなどを開発する際、どのようなモデルが合理的であるのかを話し合うことができますので、ご連絡ください。

総まとめ

以上をまとめると:

  • オープンなプロジェクト登録(詳細を入力し、ライセンス契約を読みクリックしていただいた後に、キーをご提供します)
  • 固定されていない評価期間(評価する意味のある限り評価期間が続き、時期は固定されません)
  • ティア間で機能の差はありません
  • 低予算のインディー向けに無償ライセンスがあります
  • 予算の大きいタイトル向けにティア別の製品価格があり、必要に応じて柔軟に対応します
  • 状況に応じて代替モデルを利用できます

何かありましたらご遠慮なくメールでlicensing@audiokinetic.comまで、または私のツイッターアカウント@AKMikeDまで直接ご連絡ください。ご連絡をいただく方法はこの2つがベストであると思います。

マイク・ドラムルスミス

ヘッド・オブ・ライセンシング

Audiokinetic

マイク・ドラムルスミス

ヘッド・オブ・ライセンシング

Audiokinetic

Audiokineticに2013年入社、グローバルライセンシングチームを率いる。ゲーム業界歴は20年以上で、日々小規模チームやインディーチームにも利用しやすいWwiseを目指している。

 @AKMikeD

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