何が目的のサウンドデザインか?(テクノロジーはさておき)PART 1

ゲームオーディオ / インタラクティブミュージック

“Technology aside(テクノロジーはさておき) 実に意味深だ。たった2語の短いこの表現は、多くの者が迷い込む世界のガイドなのかもしれない。この短いガイドをそばにおき、よく見ること。不要なさまよいは最小限におさえること。熊から逃げること。宝を見つけること。

この訓示をあなたのすべての判断に適用して、特にあなたのテクノロジーやツールやプロセスにあてはめてみてほしい。Wwiseに適用してほしい。なぜなら、効率的なツールは何でも、つまようじもダイナマイトもよく磨かれたトカゲでも、数々の方法で芸術や商業に応用できるし、Wwiseはあなたが使える最もパワフルなツールの1つだから。Wwiseで大いに楽しみ、世界を変えて、世界をつくってみて。でも、サルには操縦させないで、弾丸を込めたまま手入れしないで、丸ごと口に入れたりしないで。

言いたいのは、それだけ。読者がサルの話や、このブログの題名や、超能力者だったりで、僕の意図がもう分かっていたら、記事は読まなくて良し。以上。ためになっただろうから、支払いをお願い。自分の時間を節約できたんだから、な。(笑)

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最初の頃から、サウンドづくり業界の僕らは、特にインタラクティブサウンドだったりすると、「今まで夢にも思わなかったことを可能にしてくれる」とうたわれる新しい技術を受け入れてきた。懐かしい話をし出すときりがないけれど、パソコンのオン・オフのモノフォニーのスピーカーとか、AdLibカードとか、MIDIGeneral MIDI、ダウンロードするサンプル、DirectMusic8ビットの11kCD-ROM、ループ、コントローラ、シンセ、ライブラリ、プラットフォーム、そろそろやめるね。もっと書いたんだけど、削除したところ。その方が気が楽。心拍数が正常値に戻ってきた。入力を再開しよう。

前の段落を言い換えると、ゲームオーディオは約35年の歴史を通して、常にテクニカルな課題に向き合ってきた。新しいツールや技術が問題解決のために次々と出現して、その度に手元の課題を克服できたように見える一方、新たな課題がまた生まれ、それは往々にして新しいツール自体が原因だったり、使う自分たちが、多すぎる選択肢や技術的な余裕に負けて我を失ったことが原因だったりした。そういったツールや技術の中には、世界を揺るがす正真正銘の革新もあった。私のキャリアがあるのはMIDIのおかげだし、General MIDIでデビューして名前を知られ、General MIDIの改良もして、デジタルサウンドを世に送り出すのを手伝ってきた。でも、2語のガイドをたまに忘れたりすると、惨事に。

音質はよくなったけど、クリエイティブな現場は変化して、時には「昔はよかった」と懐かしむ仲間が出てきた。なぜか?心を満たすためじゃなくて、技術的にやれるから、やるようになった証し。学びの範囲を、自分のミッション達成やビジョン実現に必要な事柄に限定せず、「リリースされた」から、または「業界で成功するのに必須」だから、新規に習得するようになった。間違った時間の使い方。フォーカスの欠如。勝利を追わない。もう2度と、こうならないようにしよう。

もう一度言うけど、"Technology Aside...(テクノロジーはさておき)"

 

ツールの選択

新しいツールが、今まで手の届かなかったところに近づくための脚立のように宣伝されるかもしれない。「夢にも思わなかったことをするために」と。でも、頭の中のイメージを形ある媒体にすることがゴールであれば、夢にも思わないことを、したくもないよね?その逆だと思う。  

僕が惹かれるようなツールは、脚立よりも窓とかドアに似ていて、いらない時は邪魔にならない。すっかり忘れていた、音楽の本質を思い出させてくれるようなギターがあったら、それをゲットすること。新しいキーボードを試してみて、どのプリセットも最高で、それを直感的に調整するとさらにいい音になれば、そのキーボードはサンタにお願いすること。逆に、「これは時間さえかければすごくクールな作品が生まれるはずだから、マニュアル本を買わなきゃ」なんて思ったら、そこから得られるメリットと、その場から手ぶらで離れるメリットを、比較した方がいいかもしれない。

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サウンドデザイナーの任務は?

確かに、僕たちの職務範囲は、時には技法や技術を知ることも含まれるし、何が何でもゲームを完成させるために音をつくることや、クライアントに満足してもらうことでもあるけれど、世の中にはもっと深い僕たちのニーズがあると思っていて、行く先々で、状況をマイナスではなく少しでもプラスに変えていく責任があると思う。プレイヤーの役に立ちたい。自分の心にあるものを、伝えたい。世界が美しいことを、感じてもらいたい。それができなくても、少なくとも創造力を発揮して状況を改善させたい。こういったことを少しでも達成するには、重要なものを見極めて些細なことを気にしないようにする。見通しと、優先付けと、フォーカス。これが本物のツールで、現実では、これに対して実際の対価が支払われているわけだ。

非常に美しいテクノロジーがあなたの可能性を広げてくれそうでも、それがかえって、フォーカスや優先付けや見通しを貫こうとしているあなたの努力を邪魔してしまうことがある。

別の話をすると、ロン・ジョーンズ(Ron Jones)氏はオーケストラのコンポーザー(きっとオーディオ人間の興味を引く肩書)として“Family Guy”“Star Trek: The Next Generation”など多数の作品があり、作曲はピアノと、鉛筆と、五線紙で行っている。仕事をこなすし、プロダクトをサポートするし、心に響くし、はっきり言って我々の多くが彼のプロダクトに感嘆して、ワークフローをうらやましく思っている。時にはどこかの「コンテンツプロバイダー」が、スタインウェイの前に座るジョーンズ氏の様子を想像しながら、いつか「本物のコンポーザー」になれることを願って涙を流すことだろう。

心当たりある?「コンテンツプロバイダー」は自分のこと?今、ツール過多の迷路に迷い込んでいる?そうなら、出口はありそう?もちろんある、と僕自身にも聞こえるように大声で主張したい。誰しも美しいことを聞く必要があるので、これを我らのスローガンにしよう。タイトルの「何が目的のサウンドデザインか?(テクノロジーはさておき)」のとおり、そこからスタートして、気をそらさないこと。それがあなたの道。これさえ守れば、現実に可能な範囲で、あなたの努力もピアノに座るロンと同じく、的を得て効率的で効果的な結果になるはず。

 

どうすれば、自分に潜在的にある本来の能力を、プロジェクトで最大限に活かせるのか?

目標は明確にするべき。手元のプロジェクトで、アートな意図を表現したいとか、作曲する対象の媒体の目的をサポートしたい、と考えているはず。リニアメディアであれば、監督のビジョンに従ってスクリーンから物事が飛び出るようなサウンドをつくるべき。常に、それを頭に入れいておくこと。インタラクティブなプロジェクトでは、ゲームプレイに起伏のあるゲームデザインとなっているはずで、ゲームのイベントや特徴をプレイヤーに伝達すれば、プレイヤーは目を閉じてでもプレイでき、楽しめる。また、結構具体的なテーマやセッティングやムードもあるはずで、プレイヤーが自分の耳や心を通して生活に取り入れて自分のものにしたい、と思うような生きたサウンド環境をつくるのは、あなたの任務。インターネットにあふれる広告や解説サイトに感化されながらリリースされているツールを手探りで選ぶのではなく、こういった目標に合わせてツールを選択した方がいい。

 

  事例 1:   

私個人は、最初のアプローチとして、ゲームの重要なシーンがIMAXの巨大スクリーンで上映されているのを想像することが多い。パソコンから離れたところ、例えば運転中やシャワーの中でやるけれど、これは僕一人に限ったことじゃないと知っている(シャレにならないか)。ビジュアル化したシーン(シャワーじゃなくてゲームの話)の雰囲気を、自由に頭の中で繰り広げると、それに伴う美しいサウンドトラックが聞こえてきて、これから作成するサウンドトラックのシード(seed)となる。そこから納品の瞬間までの作業は、感動的なパワーを最終的なリスナーに届けるというミッションを達成するための努力である。

 

  事例2:  ガイ・ウィットモア(Guy Whitmore)氏

ガイは革新的なゲームスコアの1つの Peggle IIを手掛けた人。どこが革新的なのか?要は、すべてがトランスペアレントだから、プレイするのが楽しくなる。あと、ゲームプレイの上り下りに合わせてスコアをダイナミックに変化させるために、オーケストラを録音しているしね。何よりも決め手なのは、ガイが自分のビジョンをスタート地点にしたこと。初期のプロトタイプのゲームプレイの録画を入手して見てから、シャワー作曲をした、つまりTechnology Aside(R)を貫いて自分が欲しいサウンドをつくった。あとからWwiseのハンマーやらブルドーザーやら細かい機能を使って、全体的に効率的、効果的、ダイナミック、かっこいい、そして楽しい作品にした。まさしく鳴り物入りだ。

 peggle 2

  事例3:  読者自身

この事例を理解するために、まずプロセスの流れをビジュアルに追ってみよう。オーディオプロジェクトを銅像のようにとらえてみる。目をつむって、内なる眼で貴いビジョンを描き、目を開いて、ビルドする。何百年も前だったら、目を開けたときに前にあるのは、粘土の山とか、大理石の塊とノミとかで、美術館に展示してもらうには何をすべきかすぐに分かったはず。それがテクノロジーだらけになった今、巨大なゴミ屋敷に迷い込んだように、ドリルとグルーガンと既成品の銅像パーツと、ミシンと飛行船とギターチューナーと栓抜きが、目の前にあったりする。ほかにもSweetwater Soundへのリンクと、GDCでもらった、世に認められるために必要らしい新商品や習得すべき技術が掲載された大量の名刺だったりする。 

目的を忘れないように。そうすればうまくいく。「ビジョンを失うな、そして例の粘土を見つけるんだ」と自分に言い聞かせてほしい。GDCに行ったっていい、Sweetwaterを訪れてもいい、だけどまず粘土を見つけるんだ!それから、役に立つガラクタを受け入れていけばいい。

これこそ、習得して使うべきツールを見極めるための光。その過程でワークフローも本来の姿に戻り、心から手へ伝わり、プロダクトとなりリスナーの耳にたどり着き、聞く者の心を奪うまでの流れが確立される。 

 

まとめ

僕は、当然のことを言っただけかもしれない。(でも何度言っても損はないので、繰り返そう。地球にやさしいよ。まずビジョンを立てて、ツールを慎重に選ぼう。ビジョンに役立つツールで、早く習得できそうな美しい結果をもたらすものに、興味を持とう。スタート地点を見つけるのが楽になるし、そこからは、自分の心が温かくなるような音に近づけるように、必要な調整をすればいいだけ。粘土を発見しよう。ビジョンを維持しよう。テクノロジーはさておき。

最後に完璧なサウンドにたどり着いて、赤面しそうなくらい大量の賞金をもらったら、次のプロジェクトで美しきゴミ屋敷のようなループ、プラグイン、グルーブ、パッチなどのたまり場をあさって、一括操作ですべてを完成させてくれるような組み合わせを見つけたら、僕に「またお前が間違ってたよ、Fat Man!」と面と向かって叫んでくれればいいよ。過去にもあった話で、僕は笑顔になるだけ。

Wwise Adventureを楽しむこと。あなたがつくったものを聞けるのを楽しみにしているし、この記事の感想も教えてほしい。僕が言っていることが、あまりにも違う気がする?意見を聞かせてほしい。Wwiseなんだから、インタラクティブなはずだよね?

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Interview with George Sanger from 1996

 

 

何が目的のサウンドデザインか?(テクノロジーはさておき)PART 2

ジョージ・A・サンガー(GEORGE A. SANGER)

コンポーザー、サウンドデザイナー

ジョージ・A・サンガー(GEORGE A. SANGER)

コンポーザー、サウンドデザイナー

ジョージは、おそらくアメリカの誰よりもゲームオーディオを長く経験し、今日のゲームのサウンドを楽しんだりつくったりする人の多くに、影響を与えてきた。彼からのsongsforgames.comへの招待を受けて立つか、まだ目覚めてコーヒーも飲んでいない人はfatman.comを訪れて、彼に感想を送ってみては。

 @TheMightyFatMan

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