人気スマートフォンのラウドネスと周波数特性

ゲームオーディオ

 

音はiPhoneの方かいい?もしそうだとしたら、それはなぜ?HUAWEI(ファーウェイ)の携帯端末の音はどう?携帯端末はモデルによって音が違いますが、私はモバイルゲームの仕事を始めて数年経つのに、携帯の音を端末ごとに比較実験したことがないことに気づきました。携帯端末向けゲームの音響をさらに良くするために何ができるのかを知りたくて、調べてみることにしました。時間をとって次の点をテストしました:

  • 主流スマートフォンのラウドネス
  • 主流スマートフォンの周波数特性

「主流」と言っても、当然、場所によって違います。テスト用に私が集めたモデルは中国で一番人気のデバイス(調査当時)を代表するものです。はっきりとした結論に至ることを期待したわけではありませんが、できれば共通する現象と、類似点や相違点を洗い出して、さらにモバイルゲームの音をよくするコツが見つかればいいと思いました。この調査に使用した携帯端末は:

  • iPhone 7Plus
  • Huawei Mate 7
  • Vivo Y51A
  • Oppo R9 Plus

調査するにあたって使うゲームは、ラウドネスやゲームプレイモードの異なる各種ゲームサウンドから、代表例を選びました。中国のモバイルゲーム市場で非常に人気のある、ゲームタイプの違う7つの代表的なモバイルゲームです。

  • 闘地主(Fight the land lord)
  • Happy cancellation
  • Arena of Valor
  • クラッシュ・ロワイヤル(Clash Royale)
  • 陰陽師(Onmyoji)
  • ホームスケイプ(Homescape)
  • PUBG(テンセントのモバイル版。興味本位で、テンセントのPUBGモバイル版を、あえて2つのバージョンでテスト。)

 

調査方法

使用機器:

  • マイク:  Sanken CO-100(マスター)、Earthworks TC-20
  • AD: Apogee DUET FW
  •  Mac Book Pro 15"
  • Sennheisser HD25 AMPヘッドフォン
  • シグナルA: ステレオホワイトノイズ、PCM WAV、長さ60秒、ProToolsで生成。-11.9 LKFS、-8.1dBTP。これがマスタリングシグナル。
  • シグナルB: ステレオホワイトノイズ、PCM WAV、長さ60秒、ProToolsで生成。 -6 LKFS、-2.1dBTP(ターゲットレベルは12LKFSで計画)

手順: 

  • シグナルAをスマートフォンのオリジナルのデフォルトのAPPを使い、その最大レベルで、再生します。
  • 各端末のマイクゲインを変更します。マイクのインプットLKFSレベルを、必ず-11.9にします。つまり-11.9LKFSが各端末のターゲットリファレンスとなります。
  • ゲームを1つ1つプレイして、Pro Tools 12HDに直接レコーディングします。

仕様:

  • リファレンスレベル: -11.9LKFS (-12LKFS)
  • スライディング期間: 30秒
  • レコーディング時間: 各ゲーム5分以上

モバイルデバイスのスピーカーボックスについて

  • スマートDSPがDAのアンプの対応をします
  • TemperatureとAmplifyの検知機能が、DA情報をDSPに返します
  • 次にDSPがAuto Gain Control(AGC)を除外して出力電力を制限し、ハードウェアを守ります。AGCが、リミッタ付きのコンプレッサのようなはたらきをします。
  • また、どのメーカーの場合も、EQや、DSPのほかの設定を調整したり定義したりして、異なる音の好みやレスポンスにつなげることができます。

調査目的:

  • 今人気の携帯端末のラウドネスを知ること。
  • 人気モバイルゲームのラウドネスを知ること。

ラウドネスの共通リファレンス表

映画
-24LKFS
 
CDマスタリング
-15LKFS
Soundcloudでも)
iTunes
-16LKFS
 
YouTube
-13LKFS
 
Spotify
-14LKFS
 
K-labのモバイル向けの推奨
-16LKFS
 
最大ピークターゲットはすべて-1.5 ~ 4dBFS

私の個人的なラウドネスターゲット

ミュージックマスタリング
-16LKFS
30s秒間
ゲーム内 SFX
-16dB RMS
-45dBスレッショルド。ピーク < = -3dBFS
ゲームマスターアウトプット
-16LKFS
PCOL/モバイル

スピーカーアウトプットのラウドネス ホワイトノイズの場合。

リファレンス: 30cm。ホワイトノイズ-12LKFS、iPhone 7Pで再生、ターゲットレコーディングレベル-12LKFS。

Picture3

気付いた点:

  • コンテンツのラウドネスが-12LKFSより大きくなっても、そのコンテンツはより大きく聞こえません。デバイス内蔵のオートゲインコントロール機能が、コンプレッサと同じはたらきをします。
  • 30cmから40cmの間のロールオフレベルは、約3dBです。つまりラウドネスのロスは、実は速いのです。
  •  ホワイトノイズの場合、iPhone 7Plusが一番小さく聞こえるわけではありませんでした。また、iPhoneのダイナミック性が優れているわけでもありませんでした。ところが、iPhoneゲームが一番静かでした!
  • Vivo Y51Aが、ホワイトノイズでは一番ラウドネスが上でした。ところがゲームはOppo R9のものが一番ラウドでした。これは、不思議です。
  • 今回テストしたゲームの中で一番ラウドネスが大きかったのは、Oppo R9上のAOVで、-14.8LKFSでした。
  • ラウドネスが-12LKFSよりも大きいコンテンツは、音がもっと大きく聞こえません。ほとんどの携帯端末で、-12LKFSが物理的な境界パラメータなのかもしれません。実はすべての携帯端末で-16LKFSがほぼ最大レベルです。
  • 同じソースで、ラウドネスのロールオフが30cmと45cmの間で、かなり明白です.

Picture4

つまり…

ラウドネスが-16LKFSよりも大きいソースは無意味で、唯一、シャープな音に限り場合によって、それよりもラウドネスが大きく感じられます。ただし、シャープな音は携帯端末では攻撃的です。

その他の参考図表(クリックすると拡大できます)

 Picture5  Picture6  Picture9

Picture7   Picture8

 

 

 

主流スマートフォンの周波数特性

Picture1

いくつかの結論

  • どのデバイスも一番感度が高い周波数は、220、500、1k、2.5k、3.5k、10k、11k、14k
  • どのデバイスもスピーカーのロールオフは1kHzからでした。強くリッチに聞こえるゲームはどれも、220~1000Hzのロールオフが、よりゆっくりしていました。
  • Androidゲームはどれも、220Hzから上がり始めました。ところがiPhone 7Pは400Hzからゆっくりと始まりました。 おそらくiPhone 7Pはより軽くてソフトに聞こえるのに、低周波を感じ取れるのは、このためです。
  • Androidゲームは、どれも10kHzから高周波をストップするか、ロールオフします。iPhone 7Pもこれは同じですが、16kHzから22kHzで、また上昇するのです。
  • 11kHzあたりで減少する一方、11kHzより上でゆっくりとしたロールオフが、スムーズなブライトネスを確保するのに適しています。クラッシュ・ロワイヤルやホームスケイプを、チェックしてみてくださいPUBGもまた、これを証明するリファレンスとなります。
  • 4~5kHzは、どのデバイスでも制御や設計に注意を要する帯域です。

Picture2

スマートフォンの周波数特性を、一本の記事で説明しきるのは大変困難です。そこで、長さ30ページのPDF資料も用意したので、時間のあるときに読んでみてください。この30ページにはスペクトラムから読み取れる詳細がたくさんあるので、モバイルゲーム用のオーディオの新たな技を自分でも見つけられると思います。この情報が皆さんのお役に立ちますように!

今回はNext Studioにご協力いただきお世話になりました。Next Studio社オーディオチームのZhang Xin氏、そしてZhang Lei氏に、大変感謝しています。

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楊 杰(JIE YANG、DIGIMONK)

サウンドデザイナー、オーディオディレクター

Tencent Aurora Studio

楊 杰(JIE YANG、DIGIMONK)

サウンドデザイナー、オーディオディレクター

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Digimonkは1998年から活動を続けるゲーム開発のベテラン。Ubisoft、2K Games、Sheng You Sheng、Virtuosなどを経て、すでに100ゲーム以上のサウンドデザインに携わる。現在はTencent Aurora Studioのオーディオディレクターを担当。2012年、高品質サウンドライブラリーのFoley Stageを独自にプロデュースし、世界中でパブリッシュする。以来、3つの高品質サウンドライブラリである机器之心 (Heart of Machines)、微观世界(一) (Microscopic World Vol. 1)、そして北风 (Northern Wind)をデザイン・プロデュースし、ヨーロッパ、北米、日本、中国でパブリッシュしてきた。

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