『ゲーム・オブ・スローンズ - 冬来たる』のサウンドトラックを編成して、Wwiseでインタラクティブミュージックを作成

ゲームオーディオ / サウンドデザイン

こんにちは、中国のYOOZOO Gamesでサウンドデザインとプログラミングを担当しているビクター・リウです。最近リリースされたモバイルゲーム『ゲーム・オブ・スローンズ - 冬来たる』(GOT)の音楽を担当しました。このプロジェクトの開発に使ったのはUnity 2017.4.20f2とWwise 2017.2.10で、自分の仕事は主に以下の3つでした:

  1. ライセンスに含まれるオリジナルサウンドトラック(OST)から、適切な音楽を選択して必要に応じてトリミングする
  2. 「メインシティ」で使うバックグラウンドミュージックを作曲する
  3. ゲームのインタラクティブミュージックを作成してWwiseプロジェクトを構築し、Unityエンジンにインテグレーションする

このGOTゲームプロジェクトの音楽は、主にテレビドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のOSTを使っています。実は、ミュージックデザインの過程で私が主にやったのは、音楽選定とトリミングでした。私が作曲したのは「メインシティ」のBGMだけで、これはインタラクティブにするための厳しい条件があったからです。それ以外のBGMは、テレビシリーズのシーズン1~7のOSTを部分的に使っています(シーズン8の音楽もできるだけ入手しましたが、実際にゲームでは使いませんでした)。テレビシリーズのコンポーザーはラミン・ジャヴァディ氏で、彼が特に力を入れたのは諸名家のそれぞれのライトモチーフでした。

私は最初、自分の記憶力を過信していました。ミュージックトラックを選ばないといけないときに、私は全部の音楽を思い出そうとしていました。でも結局、すべてのトラックを覚えておくなんて不可能だと気づきました。そこで、まず最初にOSTを1曲残らず注意深く聴いてから、その特徴を以下のように整理しました。

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この表は、シーズン1~7のすべての曲名を一覧にまとめて(Track欄)、その右に、曲のライトモチーフ(Leitmotif)、ダイナミック(Dynamics)、ムード(Mood)、主役の楽器(Featured Instrument)、キー(Key)を整理したものです。このような索引ファイルがあれば、トラックを選択するときにキーワードで絞り込めます。例えば、スターク家のライトモチーフ用にCマイナーのトラックが欲しければ、エクセル表で「Stark」「C minor」を検索して検索結果を聴いたうえで、理想的なトラックを選択できます。

音楽のトリミングは、なかなか難しかったです。幸いジャヴァディ氏がOSTを作曲する際に、うまい方法を使っています。音楽のテンポは、ほとんどすべてが整数になっているのです。その結果、音楽を簡単にWwiseにインポートしてトリミングでき、リズムのそろったシームレスなループを作成しました。とくにコンバット音楽に関しては、約1分間の安定したループを、常に確保できています。ジャヴァディ氏にとても感謝しています。

例1: Baratheon_EntryのIntroとLoop、バラシオン(Baratheon)のライトモチーフ、PVEダイエジェティック、シーズン2『The Throne Is Mine』より (1:23-1:52)

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例2: Marching_League、アウターシティを行進する同盟軍、シーズン5『The Wars To Come』より (3:30-4:05)

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行進が終わり、通常のOuter Cityミュージックにもどるときに、その曲からとったTransition Segmentを用いています。 (4:33-4:45)

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悩みの種であった音楽選定とトリミングの2つが、これで解決しました。次は、ミュージックデザインです。

ゲームミュージックは、メインシティ、アウターシティ、ハートツリー、そしてダイエジェティックCGの、4つのパートに分かれています。

パート 1:CG

プレイヤーがゲームを開始すると、イギリスのチームがつくったこのCGが最初に流れます:

 

IオープニングのCGで流れるのは、以下のミュージックピースをトリミングして組み合わせたバージョンです:

鴉のシーン:シーズン4『The Children』+シーズン7『The Truth』
デナーリスのシーン:シーズン3『Mhysa』
スノウとサンサのシーン:シーズン4『The Children』
サーセイとジェイミーのシーン:シーズン1『Small Pack Of Wolves』

これらはすべてDマイナーのピースなので、トランジションが滑らかに自然に流れます。デナーリスとスノウの音楽には、それぞれの家のライトモチーフが使われています。サーセイやジェイミーの音楽には、『Conspiracy』のライトモチーフ(別名『Little Finger』ライトモチーフ)を使い、結局同盟は長く続かず最後に残るのは権力だけ、とするCG中のセリフを裏付けます。

同様に、ゲームのほかのカットシーンでも、ほとんどテレビシリーズの対応するライトモチーフが使われています。私は、例えばデナーリスがホワイトウォーカーたちと戦うために軍を集結するときの音楽に、シーズン3の『Wall of Ice』を使い、メリサンドルがシティに入り火をつけるときには、シーズン2の『Warrior Of Light』を使いました。各チャプターのクエストミュージックは、ライトモチーフとムードの両方を考慮して選びました。こうして、ストーリーとライトモチーフを、だいたい合わせることができました。

パート 2: ハートツリー

ハートツリーはPVEゲームプレイの一部です。ハートツリーの解錠時と、メインタイトル部分には、単純にハートツリーのテーマソングであるシーズン4の『Three Eyed Raven』を使いました。

ハートツリーのバトルでは、プレイヤーがストーリーラインに入り込みバトルシーンを通りますが、音楽は、プレイヤーが使っているキャラクターに基づいてスイッチします。例えば、チャプター1はスターク家が北方からキングス・ランディングに向かい、暗殺される物語です(シーズン1)。私はバラシオンのシーズン2のライトモチーフ『The Throne Is Mine』を使いました。チャプター1は、かつて無名だったデナーリスが勢いづく話でもあります。そこでシーズン5『Dance Of Dragons』のデナーリスのライトモチーフを使っています。どのチャプターもこのアプローチでデザインしました。

image008ハートツリーのレベルのストーリーテリング画面

音楽は、ほとんどが該当する諸名家のライトモチーフを使っていますが、テレビに出てくる順番に従う必要はありませんでした。例えば、無名のデナーリスが立ち上るときの音楽。シーズン1~2のストーリーですが、音楽はシーズン5から取っています。音楽の最初の部分はコンバットミュージックで、激しいものが必要だからです。デナーリスのライトモチーフは最初の2シーズンでは激しさが少ないので、コンバットシーンに向いていませんでした。

プレイヤーがこのチャプターをクリアすると、ハートツリーの記憶が解き放たれて主人公の声が聞けます。カットシーンには、各キャラクターの内なるモノローグに基づいた様々なライトモチーフを使ったBGMを用意しました。例えばジェイミーが内心を語るモノローグに、シーズン4の『I Only See What Matters』を使っていますが、テレビシリーズではジェイミーとサーセイが恋に落ちるときのテーマ音楽です。

パート 3: アウターシティ

ゲームのマップを見ると、ウェスタロスの七王国の地形や町の場所などが正確に再現されています。七王国の差を分かりやすくしてリアルに見せ、プレイヤーが飽きないようにするために、私はまず天候と共に変化するアンビエントサウンドを作成し、次に各王国のテーマ音楽をつくりました。プレイヤーがマップをクリックして別の王国に入るときに、音楽はその王国のライトモチーフにスイッチします。

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暑いサンスピア
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寒いキャッセルブラック

七王国と、キングス・ランディングのテーマミュージック:


The Crownlands (King’s Landing) - シーズン1-『The King's Arrival』
The North (Winterfell) - シーズン3-『I Have to Go North』
Dorne (Sunspear) - シーズン6-『Unbowed, Unbent, Unbroken』
The Vale (The Eyrie) - シーズン6-『Trust Each Other』
The Westlands (Casterly Rock) - シーズン7-『The Queen's Justice』
The Stormlands (Storm's End) - シーズン5-『The Wars To Come』
The Reach (Highgarden) - シーズン6-『Light Of The Seven』
The Riverlands (Riverrun) - シーズン3-『I Paid the Iron Price』


ぴったりの音楽を見つけようと探したとき、遭遇した問題がいくつかありました。選んだ音楽は、テレビシリーズではリーチ王国やリバーランド専用のものではありませんでした。ウェステロスの歴史を紐解くと、アイアン島の人々、つまりアイアン生まれの民は、かつてリバーランドを支配していました。また、この2つの地域は非常に近いところにあります。そこでリバーランドのライトモチーフとして、グレイジョイ家のテーマ音楽を選びました。

さて、都市のハイガーデンは特別です。テレビシリーズでよく登場するタイレル家には、テーマ音楽がありませんでした。そこで選んだのは、サーセイがベイラー大聖堂を破壊して火事でマージェリーを暗殺し、失った権力をタイレル家から奪い返すという、非常に似たシーンの残酷な音楽です。

アウターシティの音楽は得てして平和的なので、プレイヤーが軍隊を開放して過酷な遠征に挑む勢いを表すには、弱すぎます。私は行進(Marching)用にも、3種類の音楽ピースを準備しました。どれを再生するかはプレイヤーの意図によって決まり、ほかのプレイヤーをアタックするのか、軍隊を強化するのか、それとも反逆者を破滅させるための遠征に出発するのかで、変わります。

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アウターシティのミュージックデザイン:8エリア + 行進3種類(使ったトランジションセグメントについては前セクションをみてください)

 

パート 4: メインシティ

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すでに書いたとおり、私が作曲したのはメインシティのバックグラウンドミュージックだけです。このプロジェクトでは終始、テレビシリーズからとった音楽の、3つのバージョンを繰り返し使いました。ただメインシティのシーンをぴったりと表現できるものや、私が必要としたインタラクティブなデザインをサポートするような音楽が、ありませんでした。そこで自分で作曲することにしました。

メインシティのBGMには、テレビシリーズのテーマ曲のバリエーションをいくつか使って、まとめました。ストリングスは、曲のもともとのメロディやリズムを大胆に長くしたうえで、独自のハーモニーラインとサブメロディを形成しました。楽器は、とくにストリングスで、テレビシリーズのオーケストラパターンを引き継ついでいます。音楽のフォーマットは「イントロ+ループ」というゲーム音楽によくあるパターンを使っています。プレイヤーがメインシティに入ると、まずイントロが流れ、次にループに移ります。

プレイヤーはゲームのどのエリアよりも、メインシティのシーンで過ごす時間が長くなります。同時にここはグラフィックアーティストたちも一番手間をかけた部分です。初めてのプレイヤーは私たちがメインシティ用に作成した素晴らしい昼夜のサイクルや天候システムに気づかないかもしれませんが、これはもっと上のレベルに行かないとアンロックされないからです。

昼夜サイクルの途中や、雨や雪が降るときに、芸術的スタイルが変化するので、まったく異なる雰囲気やムードができあがります。そこで、同じ音楽でも複数のレイヤを作成しました。プレイヤーが耳にするのは、この4種類のバリエーションです:

  1. Normal かつ Day(メインシティ音楽の基本)
  2. Normal かつ Night(おとなしいピアノテーマ)
  3. Rain(どんよりとしたストリングス)
  4. Snow(静かな音楽と最低限の数の楽器)

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またアンビエントサウンドも、昼夜サイクルや天気によって変化します。ベイラー大聖堂では、昼間は鐘の鳴る音や、にぎやかな群衆が聞こえ、夜間は風や虫の音が聞こえます。雨天時は雷と稲妻が発生し、雪が降れば凍てつく風が吹きます。これらのアンビエントサウンドはすべて、ウェステロスの壮大な自然環境に貢献します。

メインシティのインタラクティブミュージックに関しては、昼夜サイクルや天候で変化すると同時にプレイヤーの動きにも反応します。全体の景色を楽しもうとプレイヤーがカメラをズームアウトすると、音楽はかなり表現豊かになり、逆に建築物や山脈、森や川や海などに着目してカメラをズームインさせると、音楽は控えめになりアンビエントサウンドの存在感を引き立てます。

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ゲーム中にプレイヤーが手掛ける主なアクションとして、兵隊の訓練と、建物の建設がありますが、これも音楽に影響します。軍隊の訓練中(Training)はストリングスで奏でるGOTのメインライトモチーフが流れます。建物を建設するとき(Constructing)はパーカッションが入り、うるさい建設現場を思わせます。ただし天候システムのプライオリティの方が高いので、雨や雪が降り出すと音楽より強くなります。

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2つのState Groupを使い、TrainingとConstructionの2つのレイヤをスイッチで切り替えながら、昼夜のサイクルをRTPCで制御する様子。

GOTのモバイルゲームのゲームプレイそのものは、ほかのシミュレーションゲームと変わりません。ただ、私はプレイヤーが長時間、同じシーン(メインシティやアウターシティ)に滞在するときに飽きてしまわないように、やり取りやバリエーションを最大限に活用し、複数のライトモチーフを使いこなしてストーリーに引き込まれる感覚を強化させたいと考えました。オリジナルサウンドトラックのライセンスを受けて、ほとんどのアセットをそこから選んだこのプロジェクトで、Wwiseの高度なトリミング機能によって無駄な手間を回避できました。また、SoundCasterでミュージックトランジションをリアルタイムでテストすることもできました。RTPC機能と、複数のStateを組み合わせて、ほかの開発メンバーにほとんど頼ることなく、計画した音楽的インタラクションをすべて達成できました。

このブログは中国語(簡体字)から英語、そして日本語に翻訳したものです。

ビクター・リウ(刘子奇)

ゲームオーディオデザイナー

YOOZOO GAMES

ビクター・リウ(刘子奇)

ゲームオーディオデザイナー

YOOZOO GAMES

中国・南京市出身のゲームオーディオデザイナー。2018年に米バークリー音楽院を卒業し、同年YOOZOO GAMESに入社。ゲームミュージックのデザインと実装や、WwiseとUnityのインターフェースを担当。これまで関わったゲームタイトルは『ゲーム・オブ・スローンズ - 冬来たる』『Mirage in the Flower』『The Lost Tomb』など。インタラクティブなゲーム音楽の可能性と進化を追求し続ける。在学中に、音楽をリアルタイムにアレンジしてあそぶミュージックパズルゲーム『The Music Tangram』を独自に開発。

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