理想の仕事: ゲームオーディオにおける「倫理的な雇用」という考え方

ゲームオーディオ

やや不安に思いながら、私はこれを書いています。私が人を雇用するようになってまだ長くないので、信用するデベロッパーに「雇用についての認識者みたいな態度は、一回くらい大失敗してからのほうがいいよ」と言われました。というわけで、さっそくここでディスクレーマーとして白状しておきます。さて、雇用する側になってから、「エシカル(倫理的)な雇用」の方が、サウンドデザインよりも頻繁に自分が話題に出すトピックで、関心のある分野です。世界有数の企業の中には、ひどい雇用者であるばかりか、有害であったり全くの悪者であったりする会社が存在することは、間違いありません。このような主張や不満はオーディオやゲームの業界に限定されませんが、今のところ、自分の知っている範囲の話だけにしておきます。
これから新たに雇用者になろうとしている人に、是非気に留めて欲しい、ほんの小さなことは、これです:

あなたの会社は、文字通り人で成り立っています。誰でも、幸福感を感じていた方が、質の良い仕事をします(ゴシックロック系アーティストの場合はさておき)。社員の福利厚生を最優先することこそ、会社の責任であり、利益にもなります。

人はなぜ、他人の下で働くのか?

自分が上司になろうなんて、考えたことはなかったです。最初はその日暮らしのフリーランスであり、次に忙しいフリーランスになり、それから忙しいフリーランスとして委託先をもち、そのうちフリーランスでありながらフルタイムの委託先が必要となり、いつの間にか、私は、雇用する側に??なっていたのです。なぜだ?成り行きでそうなっちゃって、当時はものすごく不安でした。そして、人を雇用したことのない人であれば、誰しも、ものすごく不安になるべきだ と、思うんです。

人を雇用するというのは、その人の人生の一部を買い上げること。フルタイム(週に40時間)で一人採用する予定であれば、それはあなたが 達成したいと思うことのために、その人の起きている時間の約35%をお金と交換してもらうわけで、相手はそれを家賃や食費の必要経費にあてたり、残りの約65%の時間を自由に使うために(好きなこと以外のつまらない個人的な用事も含め)使ったりします。現実的には、会社に頼まれた「週40時間」だけしか 働かない人は、めったにいません。大抵の場合は長い通勤時間が前後にあったり、ある程度の残業が見込まれていたり、業務時間外に行うグレーゾーンの仕事が発生したりします。実際には40%に近い数値だと思いますが、私たちの詰め込み作業が多い業界では、絶対に50%以上のはずです。

いつ、人を採用するべきか

自分のために、他人にこんなにも長い時間を費やしてもらうのが大丈夫な場合なんて、一体いつだろう?お願いする前に、雇用者は安定性と持続性を確保しておくべきだというのが、私の意見です。この点を無視するのは、ろくでもないアプローチだと思います。人々は、安定していると思って新しい仕事につくときは、生活を一変させます。新しい街や、時には新しい に、引っ越して、借金したり車を買い替えたり、家族を増やしたりします。安定という花束を見せておきながら、こちらが持続可能な計画を立てなかったために仕事が一瞬で煙に消えハープでグリッサンドを奏でて「さようなら」は、私に言わせればこの業界の容赦ない恒常的な就労条件です。 

会社という組織が十分に栄養を取らず、食生活を改めずに脚を一本切断して済ませようと決めたために、自分の友達や先輩が部署ごと、安定だと思っていた仕事でいとも簡単にクビになるのを、苛立ちとともに見守るしかない状況を、私は今まで何度も経験しています。 あまりにも周りで頻繁だったので、雇用者としてこれに意図的に逆らうようになりました。このような慣行を、私は指さして、怒りながら、「そうはなりたくない」と主張します。

それを避けるために、自分の会社の決めごととして、いくつかのことを自分に誓いました。 

1) 給料の支払い用に、必ず最低4ヵ月分の準備金を維持すること。
2)
収入源を多様化させておくこと。


No. 1は、たとえなにもかも がうまくいかず、お金が全く入ってこなくなったとしても、解決策を練る間、あるいはみんなが新しい職を探す間、最低4ヵ月はまわせるということです。No. 2は、No.1を使う必要性がどんどん減らせるということです。 

それでは、事業のダイバーシティ(多様性)を確保するにはどうすればいいのか?私の会社では、複数のタイトルを同時に進められるようなワークフローにしていて、10件前後のプロジェクトが同時進行中だということも、珍しくありません。また、時々ゲーム以外の仕事も受け、ゲームのトレーラーを全て請け負うような案件も出始めています。私の音楽のおかげで、多少の受け身的な収入も、毎月入ってきます。私たちはインディペンデント系ゲームのオーディオ分野における専門家集団ですが、それぞれが多様な技能を持ち寄っているので、自分たちの持続可能性を向上させるために利用しつつ、これらのツールを活用できる方法を見つけようと、常日頃から努力しています。 

こんなドリームチームを、私がどうやって手に入れたのか。

誰を採用するべきか

多くのゲームオーディオ関係者に共通することですが、私も、履歴書なんて興味ありません。リールを観て候補者数を減らし、以前は応募者にテストパッケージをやってもらったこともありましたが、結局は、長く一緒に仕事できる人を選ぶために、どうすると思う?長く一緒に仕事をしてみます。A Shell in the Pitにいる人は全員、業務委託先として数カ月働いてくれた人で、そのあとに正社員に移行しています。 

ここで強調したいのは、私が人を探すときに、一緒に飲みに行きたいかどうかを判断基準にしていない ということです。そういう相手はもう間に合っていて、それが「友達」というもので、きっと読者にもいると思います。「ゴード君のお友達倶楽部」をつくっているのではありません。私が探しているのは、上手く一緒に仕事をできる人で、逆に仲の良い友達の何人かは、一緒に犬小屋だって作れないというのが、正直なところ。一緒に仕事ができる、というのは、時間通りに、品質よく、互いに頭にくることがなく、責任をこなせるということです。雇用主と社員の間で、友達関係はありえるのか。もちろん、可能です!でも、「未来の大親友?」というチェックボックスが採用条件にあるとしたら、あなたの採用方法は倫理的といえません。

そして、ダイバーシティやインクルーシブ性(排他的でない)を尊重する雇用方法からかなり遠ざかってしまい、その結果、倫理的でない採用方法をとっているばかりでなく、自分のビジネスに不利な状況にしています。「一緒につるみたい人を採用しよう」という考え方自体が、無意識的に「私に賛成してくれる人」というルールになっていることが、よくあります。これはダイバーシティにとって最悪で、職場のダイバーシティは、財務的なダイバーシティにも影響します。多様で少数派の経歴をもつ人は、違ったスキルや興味や視点をもたらしてくれます。そうすると、会社のビジネスモデルが広がり、違う種類のプロジェクトへのアピールにつながります。

それでは、なぜ社員のおかげで、今までと違うプロジェクトを獲得できるのか?

会社の利益を、みんなの利益に

最初に、他人を雇用することは、自分の やりたいことをするために人の時間を買うことだと言ったのを、覚えていますか?これを私たちの やりたいことに変えていきます。 

自分の仕事のおかげで、自分よりも他人の方が利益を享受しているのを目の当たりにすることほど、嫌気を育み、疲労を増幅させるものはありません。開発者チームにとって、何か月もクランチモードで働いて、凝り固まった肩から下した完成品が成功するのを、労働環境の改善や昇給の確約なしに見届けることほど、上司のあなたが風呂で転べばいいと思わせるものは、ありません。自分が4%の給料底上げを願って死に物狂いで主張したのに、自分の給料の2倍もする洗練されたアウディーを運転して爽快に出社する上司を見ることほど、次のゲームが売れるかどうかなんてどうでもいいと 思わせるものは、ありません。もし、あなたが人間の最低限だけのものを欲しいと考えていたり、自分の会社を(これは人間で成り立っていることを、忘れないで)、病んだ、感染症のある組織にしたいのなら、どうぞ利益を独占してください。

でも、会社が少しずつ朽ち果てるのは、良くないこと。そこで、成功を分け合い、ケチケチしないでください。実際の株式であれ、寛大な率の利益配分であれ、分け合いましょう。私たちは現在、会社の純利益の35%をチームで分け合っていて、今後は、準備金や積立金の安定感が増すにつれ、さらに増やしていくことが目標です。働くインセンティブとなり、みんなが会社の成功に関与しようと思うばかりでなく、お互いのプロジェクトにも関心を持ちます。多数のプロジェクトが進行する中、その主要担当者が誰であれ、みんなが気を配り、サポートし合うようになります。成功は共有され、失敗も共有されます。 

ただし大事なのは、これが「最低賃金より時給は低いけど、チップははずむよ」という状況にしないことです。インセンティブはいつでも、生活するに十分な基本給への上乗せだと考えてください。

作業内容のダイバーシティ

近代の雇用関係で最も悲痛な罪の1つが、人を機械のように扱うという傾向です。気の利かない雇用者は、同じことを毎日やるのは、良くても疲れ、悪ければ心が崩壊ということを、忘れてしまうようです。パッションが殺されてしまいます。初めてのゲームオーディオを担当するときは目を輝かせていた人が、2年でバーンアウトして辞めて、戻ることがなくなってしまう理由が、ここにあります。 

私たちのチームでもある程度は皆が経験していることなので、私はコンテンツ制作に必ずしも関係のない、重要なタスクを一覧にしています。誰でも、疲れが溜まってしまったときに普段の仕事を離れ、このリストのタスクをこなして一日すごし、生産性を保ちつつも、元の仕事に戻る心の準備ができるまで逃避行動をとっていいことになっています。例えば、新しい機器やバックアップサービスの製品リサーチだったり、関わってみたいと思うような新しいゲームの調査だったり、ウェブサイト更新に向けた仕事の精査だったり、マーチェンダイス用に採用できそうなかっこいいアーティストの検索だったり。ビジネスに価値を付加するクリエイティブな切り口に、制約はありません。こうすることで、ちょうど疲労しきっていた脳の部分を休ませるだけでなく、自分が一つのことだけしかやれない歯車の歯ではないんだと、思い出させてくれます。

聞くだけでなく、尋ねる

私の犯した最大の間違いは、人は問題があるときに私に聞いてくれるだろうと思い込んでいたことです。j実際、聞かれることは、めったにありません。どのような雇用者であれ、雇用者または社員になった瞬間に、すでに定義された社会的な力関係に入ることになります。このため、または以前の上司や権力者などとの関係のため、あなたに問題を相談することを恐れ、躊躇してしまうことが、あるかもしれません。あなたは、問題があれば前向きに相談にのりたいと明確に伝えておくだけでなく、あなたが積極的に 見て回り、自分で確認して対処する必要がありそうな、今まで気づかなかった状況がないかを探してください。沈黙は、全てがスムーズに稼働していることを意味する、と誤解しがちです。一般的に雇用者や管理職の人はとてつもなく忙しいので、車輪が音もなく回転していれば、油を挿す必要もないだろう、と考える方が楽です。でも、人間は車輪ではないし、あなたの会社は、車ではありません。努力してください。全員と、ある程度定期的なスケジュールで、個人面談を行い、不満や心配やクリエイティブなアイディアを教えてもらってください。

ここで、Audiokinetic(エシカルな雇用企業!)の共同設立者のシモン・アシュビー(Simon Ashby)氏が最近バンクーバーに来たときに教えてくれた、特に印象的だったことを皆さんと共有したいと思います。

1. 「We’re always shipping(常にリリースの準備中)」

...だからクランチモードは無駄であり、不要。私たちの会社でも同じです。年に複数のタイトルを出しているので、クランチモードを受け入れてしまえば、年中クランチ状態になってしまいます。私は最初から「クランチ」という概念を拒否して、お客さんにも、うちのスタッフは平日の9:0017:00しか対応できないと伝えてきました。本当に、それだけで済むことです。私は事業主として緊急時に遅くまで働くことがあります(自分のワークライフバランスの悪い癖もあります)が、同じことを社員に頼むことはほとんどなく、恒常的に、または長期的に、お願いすることは絶対に しません。

2. 「Life happens(生活は、変化する)」

あなたの会社は人で成り立っていて、その人たちには人生があります。家族が亡くなったり、自分が病気になったり、精神的な問題が起きたり、心痛む別れ話があったりします。またそれ以外にも、結婚して、子どもが生まれ、明るくカラフルやかな、人間としての様々な経験や成長があります。そこで人間的な反応を示すのも、あなたの責任です。このような出来事に対応するのに時間がかかることもあり、あなたは自分の会社を大事にするのであれば、落ち着いて理解を示すべきで、その時々で何が倫理的な対応かは、正式なガイドラインが必ずしもあるわけではないので、あなたの判断にゆだねられます。 

例えば、父母兄弟など近親の死亡の場合の 忌引に関するカナダの法的なガイドラインは3 です。たったの3日。しかも近親に、配偶者や子どもも含まれます。子どもを失っても、その3日後に職場に戻らないと、生活費のために貯金に手を付けるハメになるかもしれません。ちなみに、金曜に亡くなると、お休みをとれるのは月曜だけで、土日も2日として忌引の日数にカウントされます。有給休暇からも引かれます。 

私はこれを初めて知ったときにゾッとしましたが、会社によっては、自分たちの倫理的な責務を回避し、政府の方針だから、とはぐらかそうとします。私たちはチームとして、自分達で倫理的だと思うようなガイドラインをつくり、会社の方針を決めました。 

最後に。会社は機械ではありません。人は部品ではありません。チームメンバーの声に、普段ミックスを聴くときと同じくらい本気に、耳をかたむけてみてください。本来、理想の仕事なのだから、それを実現させよう。 

ゴードン・マクグラデリー(Gordon McGladdery)

スタジオディレクター

A Shell in the Pit

ゴードン・マクグラデリー(Gordon McGladdery)

スタジオディレクター

A Shell in the Pit

A Shell in the Pitのスタジオディレクターとして活躍するゴードンは、ここで三人称で書くのをやめます。計画してこうなったわけじゃない。もともと、A Shell in the Pitは自分のソロミュージック活動用に始めたプロジェクト。そのうち、作曲の依頼が入るようになった。そして、サウンドデザインの依頼もくるように。そうこうしていると問合せが増えて人手が必要になり、キャットフード購入のために生活費を稼いでいる自分の仕事を託せる、優れた協力者を何人か見つけた。次第に常時人の助けが必要になってきて、協力者たちがあまりにも長けていて素晴らしい技量なので、誰の目にも「ただのオーディオ」だけじゃ収まらないチームとなっていた。そして突然、会社ができ、大きな夢をいくつも抱き、全て実現させてきた。今、私はA Shell in the Pitのインハウスコンポーザーだけど、サウンドデザインに関しても、かなり熱い想いがある。Rogue Legacy、Smarter Every Day、Okhlos, Wandersong、Fantastic Contraptionなどに関わってきたほか、これまでに色んなことをやってきた。実際にコンテンツをつくる仕事とは別に、今、自分が熱中しているのは、映画、サステイナブルでエシカルな雇用(つまり、この船が沈まないようにすること!)、そしてフリーランスやゲームオーディオのメンター活動といったところ。

ashellinthepit.com/

 @AShellinthePit

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