ミストラリアの不思議でダイナミックなサウンドスケープができるまで

ゲームオーディオ / インタラクティブミュージック

ミストラリアの魔術師(Mages of Mystraliaは、主人公のZiaSpellcraftの魔法を習得していく明るくてカラフルなアクションアドベンチャーゲームです。私はBorealys Gamesのコンポーザー兼サウンドデザイナーとして、Wwiseを使いながら、とても楽しくこのゲームのサウンドスケープを形づくっていきました。この壮大な冒険のサウンドトラックをつくりあげていく上で、ゲームプレイの3つの主要ステージであるExploration(冒険)、Spellcraft(魔法の技)、そしてBattles(戦い)を、前面に出したいと思いました。


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ゲームのメインエリアでは、3層に分かれたダイナミックな曲を連ねて、プレイヤーの状況に応じて曲がシームレスに移り変わるようにしています。3つのレイヤは、それぞれが独立した曲として完成していて、3レイヤとも同じハーモニーとリズムで構成されています。どのレイヤも、同じメロディを楽器だけ変えて演奏され(鼻歌を歌うプレイヤーは、中断せずについていけます)、それに伴うアレンジが、場の雰囲気に合わせて完全に変わります。

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わりと標準的なシステムなので、技術的な面を詳しく説明するかわりに、レイヤごとに極端に違うサウンドスケープを異なる楽器やエフェクトを使って作成した過程と、プレイヤーの気持ちとの関連性について、まず話します。最後に、WwiseInteractive Music機能ですべてのレイヤをゲームにインテグレーションした方法を説明します

 

 

ミストラリアの音楽の世界を一部紹介

 

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Exploration

これが、ベースとなるレイヤです。Ziaがミストラリアの豊かな環境を歩き回るときは、元気でリズム感のあるメロディーが必要でした。メトロイドヴァニア方式に従い、プレイヤーが以前のエリアに頻繁に戻る構成となっているので、Exploration中の音楽がプレイヤーの様々な冒険の流れをつくりながら、圧迫感のない音になるように注意しました。ピアノや木管楽器をメロディーとメインの伴奏に採用して、これを実現しています。ピアノのメロディーやアルペッジョのパターンはあえて軽く気まぐれな雰囲気にしていて、主に SynthogyのIvory II American Concert Dを使っています。ピアノのVST楽器を使う場合は、ピアノの幅広いダイナミックレンジを活用できるように、そのソフトのVelocityパターンに慣れておくことが大事です。これはほとんどのピアノVSTインストゥルメントでカスタム設定できるのですが、知らない人も多いです。適切なトーンをみつけるのはなかなか難しく、私は、自分のKontaktライブラリに10種類以上のピアノサンプルを入れてあります。私のお気に入りの1つが、Spitfire Audioが提供するFelt Pianoの無料LABSバージョンです。とても暖かくテキスチャーも最高なので、ソフトコードや落ち着いたメロディーにうってつけの音です。木管は生の楽器に勝るものはなく、優れた才能をお持ちのLaura IntraviaとKristin Naigusにお願いして、フルート、クラリネット、オーボエ、そしてバスーンを録音しました。

リズミカルなセクションは、主に弦楽器の担当です。ここからが楽しみの始まりで、私たちはボストンまで行き、ファイナルファンタジーやキングダム ハーツなどのシリーズで有名なSoundtRecVideo Game Orchestraをレコーディングしました。本物の弦楽器が入ると、曲がみるからに生き生きとしてきて感動的です。

そして控えめにシンセをところどころにミックスして、ライトなパーカッションやベルや口笛(文字通り)を入れると、ミストラリアを歩き回るZiaのための音の基盤ができあがりました

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Spellcraft

ミストラリアの魔術師では、凝ったメニュー画面でプレイヤーが操作する時間が長く、ルーン文字やエッセンスを並べ替えながら、パズルや敵に対処するためのパーフェクトなスペルを探します。この作成過程でプレイヤーの感動を盛り上げて、リラックス感を維持してもらえるように、アンビエント的でうっとりするような音楽を元の曲からつくり出したいと思いました。私はシューゲイザーや80年代のドリームポップのファンで、思春期にSigur RósCocteau TwinsAphex Twinなどのサウンドを分析しながら夜通し悩みぬいたものですが、まさかそれが今になって仕事で役に立つとは!

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フィルターをかけた電子ピアノやボイス、暗いオルゴール音楽、豊かなメロトロンの音などが、このレイヤの核を成します。これらの音の一部は、Sound Dustの非常にクリエイティブなGhost Dulcitone VSTiなど、彼らが提供するとても風変りで美しいインストゥルメントを使いました。

また、Dave SmithProphet 08アナログシンセもふんだんに使い、主にUADLexicon 224ValhallaDSPUberModといったリバーブやモジュレーションエフェクトで処理しました。ValhallaDSP Shimmerも個人的に大好きです。豊かで密度の濃いリバーブなので、正しく設定すればどんな有機音でもこの世のものとは思えないWarm padに変えてしまいます

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Battle

Battleのレイヤではご想像通りの重いパーカッションを使い、Ziaがゴブリンやガイコツにスペルを叩きつけるときに必要なエネルギーを表現しています。CinesamplesCinePerc COREや、SpitfireAlbion Iがちょうど良いスタート地点となり、そこに自分のサンプルも少し追加しました。また、シェイカー、木琴、ウッドブロックなど軽めのパーカッションも使えば、ちょうど良いグルーヴとテキスチャが出てきました

そして、Video Game Orchestraのストリングやブラスのパートもめいっぱい活用しました。必要に応じてサンプルにミキシングして、希望するフィーリングとパワーを獲得しました。

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ゲームのサウンドトラックは「横型(horizontal)」にダイナミックな性質だったので、戦うときのレイヤで曲の静かな部分をどう展開させるかは、確かに難しかったです。それでも結果的に、Explorationのときのピアノや木琴の音を、Battleでは弦楽器のきついスタッカートにしたり音の大きいブラスのパートに変化させたりできて、かなり満足しています。

バトル中は複数のサウンドエフェクトがあっという間に重なるので、ヘビーなコンバット音楽と組むと、すぐにカコフォニーが生まれてしまいます。手に負えなくならないように、Wwiseのゲームシンク機能のStateを活用しました。StateBattleになるときにゲームのミックスが完全に変わるようにして、アンビエント音や重要でないオブジェクトはバックグランドに回して、ゲームプレイの重要なフィードバック(敵の吠え声や体力低下の合図)が音楽に邪魔されないように気を使いました

少しレトロなつくりですが、ミストラリアの魔術師ではキャラクターのダイアログを完全にボイス化してはいないので、いつもより密度の濃い感傷的な音楽を使う余裕がありました。最近のゲーミング現場ではどちらかというと珍しいチャンスで、最大限に使わせてもらいました。もちろん、ミックス面でそれなりの課題が発生することもあり、Wwiseのゲームシンク機能のStateがここでも大活躍しました。

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インテグレーション

Wwiseのインタラクティブミュージック機能は非常に柔軟なので、ゲーム内に音楽階層を設定して希望通りのビヘイビア(動作)を実現するのは簡単でした。ゲームの各シーンで必要だったBGMの切り替わりはすべて、1つのEventplay_bgm_x)と、2つのState Groupstate_area state_phase)を使って対応しました。

例えばMystral Woodsエリアに入ると、play_bgm_mystralwoodsというEventがトリガーされ、以下のように設定したMystral Woods Switch Containerが再生されます。

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state_areaというState Goup が、最初のSwitch Contanerに対して適切なBGMを指示しますが、それはゾーン内のプレイヤー位置(森林エリア、沼エリア、またはボスエリア)によります。

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同様に、state_phase というState Groupが、あとに続くSwitch Containerに対して、ゲームプレイフェーズに合ったBGMExplorationSpellcraft、またはBattle)を指示します。

これが終われば、トランジションをTransition Matrixで正しく設定します。特に「横型」のダイナミックシステムを管理するstate_phaseコンテナの設定内容が大切です。

希望通りのビヘイビアを確保するには、3つのゲームフェーズレイヤ間のトランジションに、必ずExit source at: Immediateと、Destination Sync to: Same Time as Playing Segmentを設定します。

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あとはFade-outFade-inの設定で、異なるレイヤへのトランジションがスムーズに行われるようにするだけです。

もちろん、ミストラリアの魔術師のサウンド作成プロセスはここで終わりません。ボスファイトや感動シーンには専用の曲が必要で、複雑なスペルづくりシステムに合ったサウンドデザインを作成するのも、独特の難しさがありました。

Mages of Mystraliaのサウンドトラックの制作プロセスを簡単に説明しましたが、いかがでしたか。Borealys Gamesでは、ダイナミックミュージックの考え方を今後のプロジェクトでもっと発展させて、レイヤ数を増やしたり、プレイヤーのアクションを細かく追ったスムーズなトランジションを設定したりする予定です

 

メイキング:Crafting a Soundtrack - The Making of Mages of Mystralia's OST 

 

 

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アントワン・バション(ANTOINE VACHON)

アントワン・バション(ANTOINE VACHON)

Borealys Gamesコンポーザー兼サウンドデザイナー Borealys Gamesのインハウスコンポーザー兼サウンドデザイナー。ミストラリアの魔術師のサウンドトラックは入社後の初作品。これまでも様々なジャンルのサウンドトラック(ロック、ジャズ、チップチューンなど)をインディーゲームで提供。彼のコンポーザー、アレンジャー、そしてピアニストとしての才能とVideo Game Orchestraの堂々とした音楽が集結し、ミストラリアの世界観をあらわす不思議でダイナミックなサウンドトラックが完成。

 @reveirg

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