Blade Runner: Revelations

サウンドデザイン / VRエクスペリエンス

Seismic GamesAlcon Media Groupが、名作『ブレードランナー』シリーズをベースにしたインタラクティブモバイルVRゲームBlade Runner: Revelationsをリリースしました。Google Daydreamとの協力のもと開発された待望のこのプロジェクトで、オーディオ部分を担当したのがHexany Audioのみなさんです。オーディオディレクターでHexany Audioオーナーのリチャード・ ラドロー(Richard Ludlow)氏、テクニカルサウンドデザイナーのニック・トマセッティ(Nick Tomassetti)氏、コンポーザー&サウンドデザイナーのジェイソン・ワルシュ(Jason Walsh)氏に、話を聞きました。

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象徴的なサウンドの世界観として知られる名作を、どのようなクリエイティブなアプローチでオーディオを作曲しデザインしましたか?映画ブレードランナーの1作目と最新作の影響や、両者をつなげる役目などについて、教えてください。今回のサウンドデザインの切り口として、全体的にアナログアプローチの方が、デジタルよりも強いように感じます。この方針は、オリジナル映画のオーディオステムに基づいて決めたことですか?

ジェイソン: 初期の段階で、このゲームと2つの映画の時間的な関係を考慮し、どちらかというと1作目のサウンドや価値観に近づけようと決めました。ファンが慣れ親しんでいる既存のブレードランナー世界になじむサウンドスケープを、ゲームでも提供することが大事でした。そうは言っても、オリジナルの映画と『ブレードランナー2049』の中間におさまるように、様々なサウンドを自由に試すことが許容されていました。

リチャード: この点は開発側のSeismicとしっかり話し合い、ブレードランナー空間のソニック的な「パレット」上のどこにこのゲームを配置するか、検討しました。ゲームRevelationsと映画の時間的な関係と、クリエイティブディレクターたちのビジョンが決め手です。最終的に、アナログの方向性がRevelationsにとって絶対に正しい選択だったと思います。ただ、ジェイソンが言ったように、『ブレードランナー2049』のステムも提供してもらったので、2つの映画の世界観を融合するために参考にしました。

ゲームでは、提供されたステムのコンテンツと、自分達でつくった新しい内容を、どれくらいの比率で使いましたか? 

ジェイソン: ゲームで聞こえてくるものは、すべてオリジナルコンテンツだよ!受け取ったステムは、素晴らしい参考素材でした。私は、こういったシリーズものはすでにある素材を研究することが大事で、音の適切な「パレット」を確立する上で非常に役立つと考えています。

プレイヤーは、ノード(環境内の固定位置などにある)から、別のノードにジャンプすることで、ゲーム内を移動します。ミックスでは、ノードに基づく仕組みに、どのような技術的アプローチで臨みましたか? 

ニック: Blade Runner Revelationsのノードを使った移動システムは、プレイヤーの位置や高さが固定されていて、重要となる唯一の変数がプレイヤーの向きなので、ある意味心強かったです。RTPCState、そして個々のノード固有のWwise Eventを使い、ノード別のミックスを設定できる場合もありました。

プレイヤーが最初に踏み出すレベルは雨が降るチャイナタウン。人通りの多い路地で、RTPCを使い雨の強さをコントロールしながら、オーディオ効果のフォーカスを主要な様々なポイント間で移行させます。プレイヤーがこの路地の中央に向かって歩くと、あるノードを通り、そこでハレー・クリシュナ僧の読経や、調理人の働く音や、クラブのかすかな音楽が聞こえますが、これら重要ポイントの1つにプレイヤーが向かった瞬間、レベル内のその部分が中心となるようにミックスが調整され、音の小さいアンビエント音が光るように、空間が生まれます。

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音のエクスペリエンスとしてスペーシャルミックス(spatial mix)がまとまるように、オブジェクトベースの手法とアンビソニックスをどのように活用したのか、詳しく教えてください。

リチャード: 実は今回のゲームに、アンビソニックレコーディングを使っていないのです。Wwiseのアンビソニックミックス機能はとても使いやすいのですが、私たちはVRで、様々な理由からモノやステレオや.quadファイルファイルに限定することがよくあります。特に今回はDaydreamというモバイルプラットフォーム向けだったので、常に技術的な制約を考慮する必要がありました。

それでも、スペーシャライズされた(spatialized)オーディオソースを使い非常に迫力あるミックスを環境に入れました。また、ワールド内にモノやステレオのソースをアンビエントエミッターとして固定配置したほか、WwiseUser-defined positioningを頻繁に使い、Unityシーンの各種オブジェクトに個別のエレメントを置かずに、スペーシャライズされたアンビエントを構築できました。

そんなわけで、このミックスにスペーシャライズされたエレメントは沢山ありますが、アンビソニックレコーディングを一切使わずに実現させています。

グーグルのDaydreamResonanceを使いましたね。モバイルVRエクスペリエンス向けにWwiseを使った感想は?開発中に、技術的な制限に対応するために配慮したことや妥協したことは? 

リチャード: 実はWwiseはモバイルエクスペリエンスにとても向いていて、クロスプラットフォームで対応する場合にプラットフォーム別に最適化するのが簡単になっています。Daydreamのタイトルでは、対応デバイスの種類は限られているので、それほど問題にはなりませんでしたが、モバイルプラットフォームゆえの技術的な制限は当然ありました。

スペーシャルHRTFプラグインの観点でいうとグーグルのResonanceは確実にパフォーマンスもCPU効率も良いのですが、同時に機能セットや音質の方はいくらか制限があります。そのため、私達は使い方に慎重になり、ゲームプレイ要素において、ワールド内の位置をプレイヤーが明確に認識する必要があるものに使用しました。Revelationsでいえば、敵のフットステップやガンショットなど、敵がどこから発砲してきているのかをプレイヤーが素早く把握し的確に反応するのを助ける音が、頻繁にこれに該当しました。

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一般的に、スペーシャルHRTFプラグインはサウンドアセットの位置情報を明確にすることで、ゲームに奥行きを持たせます。ただ、音をよりスペーシャライズするにはフィルタリングが必要で、実質的な音の質に若干のネガティブな作用があることも少なくありません。音のキレと透明感が劣化することもあるため、サウンドをデザインする時に常に気にしています。これを相殺するのに役立つのが、私たちがマルチディメンショナル スペーシャリゼーション(multi-dimensional spatialization)と呼んでいるテクニックで、よくVRのタイトルで取り入れています。

1つの音を複数のレイヤにして、ワールド内の同じゲームオブジェクトにそれらを付けて、そのうち1つのレイヤだけを、HRTFプラグインに通すのです。これでプレイヤーの関心を空間の中の正しい位置に向けることができますが、音全体をフィルターにかける必要がないので、スペーシャライザー(spatializer)プラグインの、ときには不快なエフェクトによって、音全体が影響を受けるのを回避します。

例えば、NPCがプレイヤーに向かって左方向からウェポンを発射している場合に、ガンショットを3つのレイヤにして、HRTFコンポーネントと、HRTFプラグインを通さないで3Dスペーシャライズされた通常のモノのレイヤと、エンハンサーとして作用する低周波の無指向性エネルギーの2DステレオまたはQuadコンポーネントに、分けることができます。こうすれば、HRTFプラグインを使い信憑性のあるスペーシャライズ効果が感じられるのに、音質が劣らない音を入手できます。

あなたたちのクリエイティブビジョンを実現するのに、特に役に立ったWwise機能はありましたか?

ニック: User-defined positioningが、このプロジェクト一番役に立ちました。移動はノードでしかできないので、各アンビエンスを実質的に全て、WwiseUser-defined positioning機能でデザインできました。そうすると、Wwiseで作業する時間を増やし、UnityEditorで作業する時間を減らせるのです。

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特に苦労した技術的な問題はありましたか?

ニック: 技術的に一番複雑だったサウンドは、エスパー(Esper)のシーケンスで、プレイヤーは犯罪現場の検証にエスパーというツールを使い、過去をのぞく必要があります。あるシーケンスをプレイヤーがクリックすると、ホログラムの再生がすぐに始まり、現場で起きたことが再現されます。このシーケンスが終了すると、プレイヤーはコントローラの操作で自由にシーケンスを巻き戻したり、コマ送りしたり、再生したりできるので、もちろん一連の操作中も、位置関係を示すサウンドが伴わなければなりません。

この問題にどう対処したかというと、普通のSFXと逆向きのSFXを使い、両方とも同時に再生させるのですが、再生RTPCに基づいて、どちらか一方だけが聞こえるようにしました。プレイヤーが再生の向きを変更すると、再生ポジションをUnityのスクリプトがチェックし、計算し、逆向きになったファイルの正しいポジションをシークします。その結果、シームレスな再生システムが実現するのです。

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このプロジェクトで、一番誇りに思っているのは?

ジェイソン: ブレードランナーは音と音楽にかなり力を入れている、最高のシリーズだと思います。Revelationsでも、この特徴は変わりません。ストーリーテリングに大きく貢献するようなサウンドをデザインできて光栄です。

リチャード: モバイルプラットフォームのVRゲームという条件にもかかわらず、かなりの成果が出せたと思います。ときには犠牲もはらいましたが、実に沢山のことをゲームに詰め込めたと思うし、出来も優れていると思います。それと、ニックが最強のエスパー用オーディオツール再生システムを考案してくれたので、一部のシーケンスではリアルタイムに、オーディオをスクラブ再生できて、かなりクールなエフェクトが生まれています。

このプロジェクトを進める上で、一番面白かったのは?

ジェイソン: サイバーパンクは自分の大好きなジャンルの1つで、ブレードランナーという世界に没頭する格好の機会でした。 

リチャード: 一番楽しかったのは、名作のIP(知的財産)を使い、別の作品としてゼロから築き上げながら、既存の世界観に忠実であるようにした過程です。ここ数年、昔のシリーズものなどに関わる機会が何度かあり、オリジナルコンテンツやアセットを開けてみて、当時のつくり方を探りながら、自分のプロジェクト用にどう使うかを再考するのは、いつでも楽しいものです。


あなたたちと、ゲームのステークホルダーたちとの関係について、教えてもらえますか?どうやって協力体制を築いたのですか?

RICHARD: このプロジェクトに関わることになったのはSeismic Gamesが声をかけてくれたからで、一緒に仕事をしていて、いつも楽しかったです。もちろんAlcon Media Groupも関係者ですが、私たちの仕事は、主に開発者側との間の内容でした。私たちは分散開発モデルで働くことが多く、ソースコントロール経由でゲームエンジンやプロジェクトの作業をし、チームの一員として協力できるようになっています。今回のプロジェクトに関していえば、Seismic Gamesのオフィスが車ですぐ行ける距離だったので楽で、必要があれば立ち寄れるし、彼らもミックスに必要なときは、こちらのスタジオに来ていました。

Daydream専用の素晴らしいミキシングセットアップを用意できたので、ミックスのレビューセッションのときは、開発者たちが来てくれました。そのようなときはVRルームで、1人がDaydreamヘッドセットを付けて座り、ゲームプレイ内容をChromecastでテレビ画面に送り、同じ部屋にいる全員が一緒に見ることができるようにしました。さらに、デバイス上で稼働するライブのゲームビルドに、WwiseWiFi経由でコネクトして、ミックスをリアルタイムに変更していました。最後に、Pixelを、3.5mmオーディオ出力ケーブルでヘッドフォンアンプ兼スプリッターにつないで、45人が、テレビでゲームを見ながら同時に音も聞けるようにしたのです。こうすると、複数の人がいても、簡単にリアルタイムミキシングセッションが行えます!   

 

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リチャード・ ラドロー(Richard Ludlow

オーディオディレクター、オーナー 

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ジェイソン・ワルシュ(Jason Walsh

コンポーザー、サウンドデザイナー 

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ニック・トマセッティ(Nick Tomassetti

テクニカルサウンドデザイナー



HEXANY AUDIO(ヘキサニーオーディオ)

HEXANY AUDIO(ヘキサニーオーディオ)

Hexany Audioは米ロサンゼルスを拠点とし、ゲームやインタラクティブメディア向けサウンドデザイン、作曲、そしてボイスオーバーを提供する、業界トップのプロバイダー。オーディオディレクターのリチャード・ルドローと、リードコンポーザーのマシュー・カール・アール(Matthew Carl Earl)が共同で所有するHexany Audioは、ゲーム向けのオーディオをユニークな方法でつくり出し、世界中の優秀なゲームスタジオと協力しながら、カスタム化されたオーディオソリューションを様々なプロジェクトで実現。

https://hexanyaudio.com/

 @HexanyAudio

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