'NO MAN'S SKY'のサウンドの舞台裏で ― ポール・ウィアー氏が語るプロシージャルオーディオ

ゲームオーディオ / サウンドデザイン

No Man's Skyのような巨大な規模のゲームで、サウンドはどのように作られるのか?オーディオディレクターのポール・ウィアー(Paul Weir)氏に、アン・ソフィー・モンジョウ(Anne-Sophie Mongeau)が詳しく聞きました。

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The game No Man’s Sky was an ambitious project which presented considerable challenges regarding audio, due to both its procedurally generated universe, as well as its style and art. How did those challenges reflect on audio design and implementation?

ポール・ウィアー(以下PW):できるだけナチュラルなアンビエンスを保とうと最初から思っていたので、オリジナル録音の天候効果音や自然音を多用しました。Wwiseのステートやスイッチのシステムでアンビエンスを変化させたのも、理にかなったことでした。このアプローチの強みは、拡張できる基盤を比較的簡単に構築できることと、サウンドのデザインをさらに重ねてゲームの状況に反応するように設計できることです。

No Man’s Skyのようなゲームでは、プレイ中の環境やステート(状況)を理解するために、現実的な範囲内で、できるだけ多くの情報をゲームからオーディオに送る必要があります。例えば、今はどの惑星バイオームに入っているのか、天候の影響、自分と木、水、建物との位置関係、洞窟の付近か内部か、水中か、車中か、コンバット中か、などです。

プログラマーのサポート無しでこういった情報をまとめて処理した例として、interior storm ambience(嵐の屋内アンビエンス)があります。‘Storminess(嵐の度合い)’のコントロール値(WwiseでいうところのRTPC)と、プレイヤーが屋内か屋外かは、分かります。あとは、嵐の最中に屋内にいる時の振動や軋みなど様々な音を追加するだけで、プログラマーに追加作業をお願いする必要がありません。

このゲームは、殆どのオーディオをストリーミングしているのも有利な点で、取り込むオーディオ量の制限があまりありません。

私はどちらかというと、電子音より録音したアコースティック音を素材としてよく使うけれど、SF系のゲームなので、いわゆるSF系の音には合成音を使っています。それでも多くの場合、実在するメカニカル音と組み合わせて使いますね。ありふれた日常の音を録音してゲームの要となるサウンドに利用するのは、私なりに誇りを持っていることです。例えば、最新のアップデートでは数種類の車両を追加したけれど、バギーは何の変哲もない自分の自家用車をコンタクトマイクで録音したし、ホバークラフトは卓上扇風機とエアコンの室外機の組み合わせだったり、大型車両のサウンドはプログラマーのデーブのレンジローバーから録ったものだったり。エンジンにマイクを入れて2人でギルフォードの街中を回ったわけです。

全ての音にオリジナル音を使うというのが自分の普段からのルールで、これだけでもかなりのこだわりかもしれないけれど、それ以外ではどこでサウンドを入手するか、特に決まったアプローチはないですね。使えるものは、何でも使う。slbfwlrvqjrgvrvfghrk.jpg

GenerativeとProceduralの違いを、簡単に説明すると?

PW:確立された定義はなく、はっきりとした違いを説明できません。私は、generativeとはランダムなプロセスであって、一定のロジックを使ってランダム値の範囲を制御できるけれど、必ずしもインタラクティブでないと思っています。一方、proceduralはリアルタイムで合成が行われ、生でありインタラクティブであり、ゲームシステムから入ってくるデータで制御されます。オーディオ分野の説明にはなっているけれど、おそらくグラフィックプログラマーは別の定義をするでしょう。

このゲームのオーディオのうち、プロシージャル生成をしたのはどれくらいですか?また、この新しく革新的なテクニックを一般的なサウンドデザインの考え方と比較すると、どう思いますか?

PW: プロシージャル生成しているオーディオはごく一部で、クリーチャーの声やバックグラウンドの動物だけ。現時点で、このアプローチを広範囲に採用するには負荷もリスクも高すぎますが、いくつかの開発中のツールがあるので改善されるかもしれません。プロシージャルオーディオは従来からある複数のアプローチと併行して使える選択肢の一つであって、プロジェクトごとに最適なアプローチを組み合わせるというのが一番良い考え方だと思いますね。

ジェネレーティブミュージックシステム(Pulse)について、その目的や機能、他のインプリツールと比較した強みは?

PW: 根本的にPulseは、大げさなランダムファイルプレイヤのようなもので、ゲームプレイのメカニズムに基づいて、サウンドセットを制御します。サウンドを無作為に集めて入れた楽器という概念で、集められたサウンドは一般的にあるサウンドのバリエーションです。これを「キャンバス」上に置き、そのサウンドを再生する頻度や、ピッチ、パンニング、ボリューム情報など、一定の再生ロジックを設定します。この「楽器」をいつ再生するかはサウンドスケープのタイプのロジックによって変わり、タイプはplanet(惑星)、space(宇宙)、wanted(手配中)、map(地図)の4つのバリエーションがあります。だから、例えばプレイヤーがspaceにいる時は‘higher interest(高注目度)’エリアにある楽器が、宇宙船で惑星に向かっている時やワープ中に再生されます。そしてmapでは、移動中かどうか、どこに向かって移動しているか、などで音楽が変わります。

今あるサウンドスケープセットは24種類で、合計60の基本サウンドスケープと、特別ケースとしてmap、space station、photo modeなどがあります。

Pulseを使うと、サウンドスケープの実装も比較的簡単にできます。一旦wavファイルをこのツールにドラッグすると、自動的にWwiseのXMLデータが作成されてプロジェクト内に挿入されるので、Wwiseのサウンドスケープに関してマニュアルで行う操作は全くありません。

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NMSの中で、音楽とサウンドエフェクトの相互関係は?両者をミックスするときのアプローチや、音楽とSFXのダイナミックミキシングについて、教えてください。

PW: いつも、その場で進めながらミキシングしているので、想像するほどミキシングの過程は複雑でなく、PS4のタイトルなのでEBU R128標準にのっとったミキシングです。

ゲーム中にランダム再生が沢山あるけれど、常にどのサウンドの上限も下限も把握しているので、時間をかけていくうちに比較的バランスのとれたミキシングにたどりつきます。このゲームはダイアログが一切無いのも、かなり助かります。あとは、このような種類のゲームタイトルでパーフェクトなミックスはありえないということを受け入れて、カオス状態を楽しむことですね。

でも、音楽には気を使います。65daysofstaticは、エッジの効いた音を多用するので、目立ちすぎないように時々EQを使いました。同じく、あまりにノイズベース(noise-based)のサウンドは、効果音に聞こえてしまうかもしれないので除きました。でも全体として65daysofstaticが作成したものを9割方、そのままゲームに入れました。

ライブラリからとった音を利用することと、オリジナルのコンテンツを作成することについて、どう思いますか?

PW: 大きいプロジェクトでは、可能であれば全ての音に必ずオリジナル音を用いてライブラリのサウンドを一切使わない、と徹底的にこだわります。もちろんゲームにもよるし、現実的かどうかもあるけれど、No Man's Skyでは今のところ、できています。小さいプロジェクトや時間が迫っている時は、当然、ライブラリを探すのもありです。長年の間、個人的に集めてきた音のコレクションは膨大になり、今も常に追加しています。

NMSのプロシージャル、つまり合成オーディオで使ったツールや、作成過程で使った他のソフトは?

PW: 開発当初にFlowstoneを使ってVocAlienというシンセシスコンポーネントのプロトタイプを作りました。Flowstoneの強みはVSTのエクスポートができることで、VocAlienのプログラマーのサンディー・ホワイト(Sandy White)が、Wwiseでプラグインをホストできるように簡単なVSTブリッジを書いてくれました。でも当然リリース用にはC++でなければいけないし、PS4やWindowsにクロスコンパイルする必要もあります。VocAlienは単なるシンセサイザーではなく、複数のコンポーネントで成立していて、MIDIコントロールサーフェスやMIDIリード・ライトモジュールも含まれます。

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もう少し技術的に掘り下げると、オーディオ最適化はどうしましたか?プロシージャルオーディオを使うと、CPUやメモリ消費は改善されましたか?

PW: VocAlienは非常に効率的で、平均的にCPU負荷はとても低いです。ただ、ゲームの性質上、1つの惑星にどれだけのクリーチャーやサウンドを出すオブジェクトがいるのかを予測できないので、ボイス配分が激しく上下することが十分あり得ます。距離に応じたボイスリミットを頻繁に使って、常にプレイヤーに一番近い音が優先されるようにしています。

プロシージャルオーディオの一番良い使い方は?向いているプロジェクトやサウンドは?

PW: 先ほど、プロシージャルオーディオを自分なりに定義してみましたが、従来のサウンドデザイン手法を使っても難しかった問題に応用できた時こそ、意義があるんだと思います。

リアルなサウンドを作成する手法としては、まだまだ弱い。例えば、風や雨のエフェクトを作るには、基本的に好きではないです。サウンドデザイナーとして、サウンドに対してとても機能的なアプローチに感じてしまい、時として自然音がかもし出す感情面が、無視されてしまうようです。風は、冷たかったり優しかったり、不気味だったり心強かったりします。自然音には、人間が本能的に反応する複雑な特質があって、合成音だと、これがぐっと難しくなります。

最後に、NMSのオーディオは非常に変化に富んでいて、全体として大きな目標を達成できたと思いますが、ゲーム中で特に気に入っているサウンドは?

PW: ありがとう、褒めてもらえると非常に嬉しいです。始まりは本当に偶然だったけれど、ゲームに実に多様な感触の「雨」を挿入できたことが気に入ってます。最近、ショーン(Sean)にSimRainを作らせてくれてありがとうと言ったばかりで、ゲーム自体が偶然の産物でした。

自分にとって、ありふれた物の音がゲームに使われているのが嬉しくて、例えば電動の揚水ポンプだったり、自販機だったり、ガレージの自動シャッターだったり。音の材料として使った生の音を以下にいくつかあげたので、聞いてみてください。

 

ポール・ウィアーさん、プロシージャルオーディオの見解についてのお話を、ありがとうございました!

このインタビューは、A Sound Effectに最初に掲載されました。

 

アン・ソフィー・モンジョウ(ANNE-SOPHIE MONGEAU)

サウンドデザイナー

アイドス・モントリオール(Eidos Montreal)

アン・ソフィー・モンジョウ(ANNE-SOPHIE MONGEAU)

サウンドデザイナー

アイドス・モントリオール(Eidos Montreal)

アン・ソフィーは、Eidos Montrealでサウンドデザイナーとして活躍中。以前は、DIGIT Game Studios(ダブリン)のゲームオーディオエンジニア。2012年からゲーム開発に携わり、独立系からAAA級まで広範囲のタイトルのサウンドデザインやサウンドインテグレーションを経験。エジンバラ大学などで音楽を学び、あらゆる方面のプロジェクトに参加してきたアン・ソフィーは、これまでにショートフィルムやドキュメンタリー、そしてオーディオビジュアル系のインタラクティブなインスタレーションなど、リニアとインタラクティブの両方のメディアに携わる。ナレッジシェアリングに熱心な彼女は、大学生を対象に実践的なワークショップやマスタークラスを定期的に開き、ゲームオーディオのツール活用法を伝授する。

 @annesoaudio

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